98年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

97年の回顧と98年の展望 -3-


(2)インテルのMPU戦略

 インテルは驚異的な利益率を誇る企業である。最新の97年7-9月期の決算でも売上高61.6億ドルに対して純益は15.7億ドルで、利益率は25%にもなる(因みにIBMは186.1億ドルで13.6億ドル、マイクロソフトは31.3億ドルで6.6億ドル)。12月22日付けのビジネスウィーク誌に面白い表が載っていたので引用させていただく。


インテルのMPUから上がるマージンの高さ
  
製品名発売時期最近の公表価格推定製造費推定マージン典型的なシステム価格MPUの価格構成比
Pentium MMX, 233MHz97.6$300$5083% $165518.1%
Pentium II, 266MHz97.553010381236322.4
Pentium, 200MHz96.61064062 12528.5
Pentium PRO, 200MHz95.1148714470319015.3
AMD K6, 166MHz97.48470 1710408.1
Cyrix MediaGX, 180MHz97.281454479910.1

DATA: Company Reports, Computer Intelligence, Micro Design Resources


 この表から一目瞭然のように、最新のペンティアムによる収益率は著しく高く、AMD社やCyrix社との対抗上はまだまだ値下げの余地はありそうである。しかし、インテルとしては次の高収益チップを出すまではそうそう値下げばかりしているわけにもいかないだろう。様々な報道を総合すると、以下のような開発戦略を立てているようである。

 最初に1000ドル以下PC対応としてキャッシュ・メモリーを外した廉価版ペンティアムUを出す。併せて現行のペンティアムUの333MHzを出し、年央までには350と400MHz版を、さらに年末までには450MHz版も出す。これらにつきキャッシュメモリーのあるなしや容量などで性能、価格にバリエーションを付ける。一方、「デシュート」という開発コードネームの次世代ペンティアムUは、現行の66MHzのバスから100MHzのバスに移行させ、速度も350、400、450MHzを年後半に順次出していく。

 それだけなら、廉価版を出す以外はこれまでの高性能追求路線とあまり変わりがないようだが、インテルは最近、後述するメディア・ビジネスの方に大きな関心を示している。マイクロソフトがウィンドウズCEをモバイル・コンピュータのみならず、セット・トップ・ボックスやその他の家電製品に使ってもらおうとしているのと同様に、インテルも自社のMPUをセット・トップ・ボックスやその他の家電、自動車にまで広く使ってもらうことでPCとは比較にならない程の大きな市場に乗り出そうとしている。自動車のフロントガラスにもインテル・インサイドのシールが貼られるようになるのだろうか。

 もう一つ、10月9日にインテルはヒューレット・パッカード社と開発中のコードネーム「マーセッド」と呼ぶ64ビットMPUの生産を1999年に開始すると発表している。現在でも1万ドル以下のサーバーの97%はペンティアム・プロなどのインテルMPUを使っているが、99年以降には、全てのサーバーセグメントの90%までをマーセッドが押さえてしまうだろうとも言われている。現に、DEC社はこの5月からインテルを特許侵害で訴えて以降、訴訟合戦を繰り広げていたが、10月には自社のアルファ・チップの製造までもインテルに任せて、マーセッドを使ったサーバー開発を行うべく和解している。

 また、12月にはサン・マイクロシステムズ社がサンのOS「ソラリス」をマーセッドに移植するためにインテルと協力することに合意したと発表している。このように、ライバルまでも次々とマーセッド・ユーザーに取り込んで行くことで、PCの下位部門が少しぐらい食われようと何の問題もない。いやはや、今更ながらすごい企業だと思う。なお、インテルのアンドリュー・スティーブン・グローブ氏は、前述のビジネスウィーク誌の表紙も飾ったが、タイム誌の伝統ある年末年始号の表紙を飾る、「1997 Man of the Year」に、トランジスタ発明後50年に当たるディジタル・エイジを代表するにふさわしい人物として選ばれている。

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