98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -3-


1)ガートナー・グループのカッセル副社長:

北米とイギリス、オーストラリアに比べ、日本、台湾、西ヨーロッパ諸国は昨年時点で少なくとも1年は対策が遅れており、98年3月に同グループの5段階評価の第3段階(計画の完了/リソースのコミット)にようやく達すると見ている。世界全体としてみると、85%のユーザーが今後6ヶ月以内にY2Kの改修及び確認の段階に入るが、人的リソースの不足に直面している。COBOLプログラマーはメキシコでは年収12,000ドルだったのが米国に来て400%アップのオファーを受けている。カナダのプログラマーは年収25,000ドルだったのが米国とイギリスでは100〜200%アップとなっている。

2)パキスタンの国連大使、カマル氏(国連情報科学ワーキンググループ議長):

国連内の機関の対応状況調査を97年8月に行い、その結果は国連内の主要なコンピュータ・アプリケーションはY2Kに対応しているというものであったが、古いメインフレームもかなり使われており、改めて各機関にリマインダーの情報を送っている。国連加盟国の認識を高めるため、97年9月15日に国連ビルにおいてシンポジウムを行ったが、まだまだ認識は低い。ガートナーグループの調査にあるように、過半数の国は対策が完了しないかもしれず、特にラテンアメリカとアジアのエマージング・マーケットで深刻な問題が生じる恐れがある。(パキスタンを含めいくつかの途上国には自国では力を発揮できない優れたプログラマーがいるので活用して欲しいとのアピールもしている。)

3)KPMGピート・マーウィックのカーニー氏:

ウォールストリートのクライアントと一緒に世界を回ったが、欧州ではEMU対応の方に目が向けられていて、Y2Kは後回しという感じであった。4月にシンガポール、香港、東京を訪れたが、その認識の低さには驚いた。クライアントの現地支店が言うには、政府も中央銀行もY2Kの深さにも広さにも気付いていないと言うことであった。「実際に日本銀行に同行が取ったか取ろうとしているY2Kに係る規制措置について聴きたいとの面会を申し込んだところ、何回も拒絶された。我々のクライアントにとっては日銀への依存は大きいので大変深刻なことである。(この部分ほぼ直訳)」その後、サンパウロ、ブエノスアイレス、メキシコシティを訪れたが、Y2Kについての完全な認識と関心の欠如に直面することになった。このような状況下、国際金融市場の相互依存状況を考えると、米国政府としてビジネス・リーダー、市場関係者、中央銀行に焦点を当てたY2Kサミット及び、大蔵大臣間のY2Kダイアローグを提唱すべきである。

4)Y2Kインベスターズ社のキーズ氏(著作家、ラジオ・コメンテーター):

米国の貿易相手国は6〜18ヶ月米国より遅れている。カナダでも先月政府が出した報告の中で、既にあまりにも遅れていてクリティカルなシステムでトラブルが起こることは防ぎようがない状況と述べている。「米国の第2の貿易相手国である日本はリセッションの最中にあり、銀行は弁済能力維持に奔走している。アジア市場の崩壊の結果、さらに倒産するところも出るだろう。ワシントンの国際経済研究所のモリス・ゴールドシュタイン氏は日本は真に世界的な銀行危機に陥っていると言っている。米国の金融機関は、日本の銀行からY2K対策が間に合うとの保証を取れないことに益々憂慮を深めている。(この部分ほぼ直訳)」第3位のメキシコに至ってはこの10月30日に政府のY2Kタスクフォースの初顔合わせが行われたばかりという状況。イギリスでも最近の調査でビジネスの10%、GDPの30%にあたる分野でY2K対策が間に合わないと言っている。独仏伊は統一通貨対策で手が一杯であるし、オーストラリアも連邦準備銀行によれば、多くの作業が未完のままとなるだろうとしている。このような中でも少しでも緊急性を高めて作業を進めていかねばならず、大統領がY2K Czar(ツァー、専制君主)を指名し、国内のY2K対策に係る全ての権限を与えるとともに、国際的なY2Kワーキンググループを設立し、このCzarに米国を代表させるべきである。

証人の証言の後、モレラ議長は「米国のリーダーシップは議会からではなく、行政府のトップから発揮されるべきで、ゴア副大統領も通常は技術問題に示す関心を、本件には表していない」と非難した。また、証人に対し、現在提案されている法的手段、すなわち「上場企業にY2K対策の進捗に関する情報公開を要求するが、対策に誠実に取り組んでいる企業には損害賠償責任を負わせないとするもの」であるが、これについての見解を聴いている。キーズ氏は「損害責任を限定することは企業の真剣な対処努力を損なう。責任負担の要求だけならば現在既に銀行が融資希望者からY2K準備状況を聴いているような、市場主導のアプローチがより効果的である。」とコメントしている。

なお、Y2K問題にかなりの時間を割いてきた両議長は、せっかくのテーマを自分にも活かそうと言うことか、パフォーマンスを始めている。ホーン議長は97年9月15日、OMBの進捗状況報告を使って、彼独自の各省庁の格付けを行ってプレス発表している。例えば、社会保障庁が最高のA-グレードで、続く総合サービス局、全米科学財団、中小企業庁がBグレードとなっており、悪い方では国際開発庁、運輸省、教育省が落第点のFグレードとなっている。またホーン議長は、10月17日には、旧ソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏を証人に招いて、ロシアのY2K問題の困難さについてヒアリングを行っている。

一方のモレラ議長は、大統領のリーダーシップの欠如に批判的であり、98年1月3日の共和党専属ラジオ局の放送で、「大統領はY2K問題でPresidential "bully pulpit"(ある種の権威を持った人がその権威を利用して聴衆の行動を変えるために行う演説)を利用して、米国及び外国の政府・民間の一層の努力を奨励すべき」とのスピーチを行っている。

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