98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -2-


2.連邦議会におけるY2Kへの取組み

(1)下院の公聴会
最初にY2K問題が議会で公式に取り上げられたのは、下院政府改革・監督委員会の政府運営・情報・技術小委員会(ステフェン・ホーン議長、共和党、カリフォルニア州)における公聴会で、96年4月16日に開催されている。続いて下院科学委員会の技術小委員会(コンスタンス・モレラ議長、共和党、メリーランド州)でも公聴会を96年5月14日に開催し、その後はこの両小委員会が共催していることが多い。一応の役割分担としては、政府運営小委員会の方は、後述するOMBの政府機関のY2K対策進捗状況報告のチェックを、技術小委員会の方は、Y2K問題を様々な角度から見ての啓蒙を中心にしているようである。

因みに、技術小委員会における96年5月の第1回公聴会の様子を見てみると、Y2K問題の全般的な理解のための質疑と議会として何を行うべきかという問いかけが行われている。初回ということで証言者は、ジェイガー氏を初め、社会保障庁、NIST、IBM、ソフトウェアからEDSとCAが招請されている。ジェイガー氏はその時点で北米の65%の企業はY2K問題に気付いてもいないと証言し、社会保障庁は89年から本問題に取り組んできた優等生だが、他の政府機関がY2K対策を期限内に達成できるかの見通しは厳しいとしている。年を4桁で表示するという標準を強制すれば良いのではないかとの議論に対しては、NIST自身もソフトウェアの修正には多様な方法があり、強制は適当でないとの立場を述べている。ベンダーの立場からは、それぞれの取組を紹介した上で、技術的には手間こそかかるが克服できない問題ではなく、重要なのはITユーザーのマネージメントが早急に適切な対応に取りかかることだとしている。この公聴会では、議会の役割として、法制定や規則による強制ではなく、公共に対する啓発が望まれる旨結論づけている。

   この両小委員会の第1回の公聴会後、96年7月、97会計年度連邦予算支出承認法案の下院での審議において、政府のコンピュータ・システムのY2K対応を各省庁に義務付ける字句修正が加えられている。これも公聴会を始めた成果なのかもしれないが、これによりOMBは議会に対し、各省庁の対策の進捗状況を報告する義務を負うことになり、予算支出承認委員会に加えて、公聴会を開催している両小委員会の親委員にも提出するように命じられている。

その後の両小委員会の公聴会は、各省庁からそれぞれの進捗状況を聴くことが中心になっているが、その他の示唆的なヒアリングも行っている。例えば96年9月10日の公聴会では州政府の対応状況について、NASIRE(後述)とペンシルバニア州の証言を聴いており、またPCはY2Kの問題があるのかというテーマで、ITAAのミラー会長から、よほど古いものでなければチップもOSも対応済みとの証言を聴いている。NASIREのホウリハン副会長は、全米各州の75%はまだ計画段階にあり、わずか25%がそれより先に進んでいる状況だとし、連邦政府の積極的な関与を訴えた。その後97年3月20日の公聴会では、ライアビリティの問題なども取り上げている。97年7月10日の公聴会では、OMBからの進捗状況を中心に聴いているが、GAO(会計検査院)はOMBの調査方法では甘いとの趣旨の批判をしている(後述)。

最近では97年11月4日に開かれた技術小委員会の第5回の公聴会がある。何とこの日は、下院の銀行委員会がY2Kの金融機関が直面する問題点について、上院の銀行委員会はY2K情報のディスクロージャーの必要性について、そして下院の復員軍人委員会もY2K問題についてそれぞれ公聴会を開催しているという、「Y2Kジャンキーにとってはたまらない日」(モレラ議長)であった。この日の技術小委員会は、「Y2Kのグローバル・ディメンジョン」をテーマとしている。モレラ議長は米国がいくらエネルギーと予算を費やしてY2Kに対応しても、グローバル・パートナーがそうしておらず、それらとのインターオペラビリティの問題が存在するならば、結局米国の努力も無駄になると発言している。以下、やや長くなるが日本に触れているところを中心に4人の証言のポイントを記してみる。

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