米国における
コンピュータ２０００年問題のその後-3-

SEC（証券取引委員会）から、「Staff Legal Bulletin No.5（97年10月8日発表、98年１月12日改訂）」という「指導通達」が出されていることは前回報告した通りである。この通達に基づき、企業はSECへの四半期報告において、Y2Kに関する情報公開も行うことが必要となった。しかし、実際に提出された企業からの四半期報告の70%にY2K関連の情報が公開されていたが、SEC内に設けたタスクフォースが1000を越える報告を吟味したところ、投資家が望むであろうような質の高いY2K対応の情報をしているところは多くないことが判明した。

このためSECでは、再度、より質の高い情報公開を求めるため、7月 29日に「Staff Legal Bulletin」に置き換わる「Statement of the Commission regarding Disclosure of Year 2000 Issues (http://www.sec.gov/rules/concept/33-7558.htm)」を発表し、8月4日付けで発効させた。このStatementでは、10-Qフォームによる四半期報告の「財務状況及び業績に関する経営陣の議論と分析」の項の中に、

1)当該企業のY2Kら対応の進捗状況、
2)Y2K対応にかかる費用、
3) Y2K問題によるリスクの予測、
4) コンティンジェンシー･プラン、について記述するよう求めている。

それらの記述方法についてかなり詳細にガイダンスが与えられている他、財務諸表にもY2K関連の費用や損失などについて記述するよう新たな要求をしている。

早速、“www.year2000center.com”の8月下旬のWhat's Newで、 8月に入って最初の2週間でSECに提出された第2四半期の10-Q報告についてコメントがなされている。

「ディスクロージャーのルールが変わったので、前の四半期と比較はできないが、多くの企業でY2K対策費の見積もりが著しく増大しており、それを正確に推計することがいかに難しいかを知ることができる。例えばメリルリンチでは、3億ドルとしていた見積もりを25％増の3億7,500万ドルに修正している。しかしより注目すべきは、同社がまだこの先2億ドルの支出を残していると報告しているところである。同社の最近の支出から見ると、昨年度末時点で同社は、残りの費用について大幅に過小に見積もっていたことがわかる。ユナイテッド・エアラインについてみると、同社のY2K対策費用の総額は、最新時点で5,000万ドルとされており、年末時点で1,500万ドルと言っていたのの3倍以上となっている。これら2社の事業規模、業績の見通し、収益力から見て、この費用の増加の絶対額は、財政的にも法律的にも些細なものに見える。しかし、この2社のように財政的にしっかりした企業でもこのような難しさを示しているということは、財政的にそれほどしっかりしていないところではどのくらい難しいことになるのだろうか。Y2K対策費の正確な推計の重要性については、いくら言っても言いすぎということはない。

SECのディスクロージャーの要求は、株主による訴訟のロードマップとなる。慎重な経営陣は早急に彼らのY2Kのリスク分析を完成させ、あるいは定期的にアップデートし、彼らの必要とする対策の全貌を理解することになる。そして、需給の逼迫による対策費の増加と効率の上昇の欠如を現実的に反映した費用推計を行うことになる。」

実際にそれらの情報公開をウェブ上でみるのは容易である。各社のウェブサイトのファイナンシャル･ステートメントを見るか、SECのEDGARデータベース(http://www.sec.gov/edaux/searches.htm)に社名を入力して探せば良い。上述の2社のY2Kに係る報告を参考までに抜粋してみると以下の通りである。