98年910月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一


米国における
コンピュータ2000年問題のその後-2-

(3)OMBによる省庁毎の進捗状況報告

前回も報告したように、OMBは、97年2月に連邦政府のY2K対応の戦略についての報告を議会に提出して以来、97年5月、8月、11月、98年2月、5月、8月のそれぞれ15日時点の進捗状況について、議会に報告を提出している。最新の8月15日付けの第6次報告 (www.y2k.gov/new/y2k6qc.htm)によれば、概要は以下の通りとなっている。

ミッションクリティカルな連邦機関の7,343のコンピュータシステムのうち、50%が対応済み(5月時点は40%、2月時点は35%)、40%が対応中、9%が入替え待ち、1%がリタイア予定。

要対応のシステムのうち、71%は改修まで完了(5月時点は55%)。

各連邦機関は現在コンティンジェンシー・プランを策定中。

24連邦機関中、9機関が「十分な進展有り」の第3段階に位置。これらの機関のミッションクリティカルなシステムの74%が対応済みで、対応中のものも89%は改修まで完了。

8機関は「進展は有るが注意が必要」の第2段階に位置。7機関が「進展が不十分」の第1段階に位置し、今回国務省が格落ちし、前回の6機関(国防、教育、エネルギー、厚生、運輸、国際開発)に加わった。

6月19日付けのOMBの通達で、第1、2段階に位置する各連邦機関は毎月OMBに進捗報告を提出することになっており、また、第1段階に位置する連邦機関は、毎月シニアマネジメント会合でコスキネン議長に直接進捗報告をすることになっている。

加えて、9月2日にはゴア副大統領が上記7連邦機関の長と担当責任者を呼び、それぞれのY2K問題の優先プランの説明を聴いた。

対策費用の総額(96?2000年度)は54億ドルと積算(5月段階では47億ドル)。このための特別予算が求められており、政府としてはY2K問題への緊急ファンドメカニズム創設のための議会の動きを支持している。

政府全体として、連邦政府機関の使う情報通信、ビルのシステム、バイオ・メディカル装置、研究所設備等の分野でのY2K対応の努力を行っているが、これらのベンダーの一部からはその製品のY2K対応状況に係る情報開示についての抵抗を受けている。しかし、政府が提出中の「Year 2000 Information Disclosure Act」がこのような障害を取り除くことに役立つだろう。

機関毎の進捗状況は下表に示すとおりであるが、連邦政府全体としての99年3月までの実証の完了という目標に対する各機関の目標設定を見ると、司法省、財務省、総合サービス局、人事局、中小企業庁、社会保障庁がそれより早い完了を予定し、厚生省と国際開発庁のみが、それより遅い期限を設定している。これのみを見ると、ほとんどの連邦機関が予定に収まっていて、2000年に十分間に合うかのように見えるのだが、あくまでも目標の設定であって、各連邦機関はそれぞれの問題点や例外的に間に合わないシステムについての報告も行っており、OMBとしては未だ楽観的な観測はしていない。(なお、国防総省も98年12月の完了としているが、安全保障上の観点から必ずしも全てを公表していないようであり、あてにならない。)

各省庁ミッションクリティカル・システムのY2K対応状況(98.8.15時点)
......................................
システム数 うち
既対応
うち
要対応
要対応のシステムの状況
評価 改修 確認 実証
実証目標 対応コスト
(mil.$)
評価段階
農務省
647 406(63%) 334
100% 71% 51% 50%
3/99 119.8 2
商務省 455 348(76%) 141 100% 71% 60% 59% 3/99 89.2 2
国防総省 2965 1236(42%) 2075 99% 70% 34% 27%
12/98 1956.3 1
教育省 14 4(29%) 8 100% 50% 13% 13% 3/99 33.7 1
エネルギー省 411 164(40%) 154 99% 50% 32% 29% 3/99 201.7 1
厚生省 298 122(41%) 163 100% 31% 12% 14% 6/99 509.8 1
住宅都市開発省 62 37(60%) 40 100% 80% 58% 40% 3/99 59.9 2
内務省 91 29(32%) 83 100% 73% 42% 33% 3/99 35.4 2
司法省 207 64(32%) 160 99% 83% 24% 18% 1/99 59.0 2
労働省 61 24(39%) 27 100% 52% 22% 19% 3/99 48.5 2
国務省 59 21(36%) 12 100% 50% 25% 0% 3/99 167.6 1
運輸省 616 286(46%) 297 100% 65% 23% 11% 3/99 213.0 1
財務省 323 144(45%) 234 100% 72% 51% 44% 12/98 1470.1 2
復員軍人省 319 196(61%) 319 100% 94% 84% 61% 3/99 200.0 3
国際開発庁 7 1(14%) 5 100% 20% 20% 20% 9/99 39.3 1
環境保護庁 58 46(79%) 29 100% 86% 79% 72% 3/99 26.2 3
緊急管理局 49 34(69%) 15 100% 67% 53% 47% 3/99 12.6 3
総合サービス局 58 45(78%) 20 100% 80% 80% 75% 6/99 13.9 3
航空宇宙局 158 99(63%) 101 100% 76% 54% 51% 3/99 46.9 3
原子力規制委員会 7 2(29%) 4 100% 50% 25% 25% 3/99 10.9 3
全米科学財団 17 14(82%) 9 100% 100% 78% 67% 3/99 1.4 3
人事局 111 53(48%) 79 100% 52% 42% 42% 1/99 6.4 2
中小企業庁 42 31(74%) 42 100% 74% 74% 74% 9/98 10.7 3
社会保障庁 308 286(93%) 289 100% 93% 90% 87% 1/99 33.2 3




合   計
7343 3692(50%) 4640
99% 71% 44% 37%
3/99 5365.5
注)連邦政府では、Y2K対策の各段階の期限を、
評価(Assessment)=97年6月、
改修(Renovation)=98年9月、
確認(Validation)=99年1月、
実証(Implementation)=99年3月と設定している。

今回のOMB報告書は、連邦政府全体の課題として、コンティンジェンシー・プラン(以下CP)策定と、Y2K特別予算編成の動きについて触れている。

CPは、各連邦政府機関がY2K問題による万一の事態に備えて、リスク軽減の戦略と、当該機関のコア・ビジネス継続のための代替手段を記述しておくと言うものであるが、それらの機能は当該機関の内部のシステムによるのみならず、当該機関のコントロール外のサービス、例えばサプライヤーの製品、サービス、データ等の供給能力などにもよるものとして考えなければならない。このCP策定の作業は、まだ始められたばかりであるが、重要性を増しており、この数ヶ月の間に各機関によって策定されることになる。

この作業を支援するため、CIO協議会の2000年委員会とGAO(会計検査院)は、8月にCP策定のためのガイダンスとして、「Year 2000 Computing Crisis: Business Continuity and Contingency Planning(http://www.gao.gov/special.pubs/bcpguide.pdf)」を公表している。また、社会保障庁の6月30日付けのCP(Version2.0)(http://www.gsa.gov/gsacio/ssay2kb1.htm)も参考としてウェブ上で公開されている。

 Y2K対応のための予算であるが、夏休み前の議会審議において、緊急予算的な性格で、「財務省・郵政サービス・政府総合サービス」の歳出予算承認法案の中に、32億5千万ドルの計上がなされていた。予算項目上は「大統領府予算の9その他」のところに入れられた。上院においては夏休み前には可決に至らなかったが、下院においては歳出予算承認委員会を通過する際に、この項目が除去されてしまっている。これは、Y2K予算を緊急予算的に扱ったことが、下院内の均衡予算絶対尊重グループの、緊急予算の名の下に均衡予算のレベルを崩して歳出を強行するのではないかとの反発にあったため。夏休み明け後も議会がクリントン問題で混乱しており、9月末までの段階で歳出予算承認法案は可決されていないが、10月8日までの会期中に上院が原案通り承認して両院合同協議でこの緊急予算が復活する可能性が高いと見られている。また、9月中旬の段階でクリントン政権は、99年度予算のスタートが遅れ暫定予算となる場合(1週間程はこうなる見込み)にも、Y2K対応予算を継続して使えるよう要請している。

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