99年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるハードウェア・ベンダーのソリューション・ビジネス戦略(前半) -1-


はじめに

 米国のIT産業を追っていると、頻繁に「ソリューション」という言葉にぶつかる。コンサルティング会社などが毎日のように開催しているセミナーの多くも、ビジネスの何らかの「ソリューション」を提供しようというもののようである。この1月21日に発表されたIBMの98年決算速報を見ると、97年においては、ハードウェアの売上とレンタル収入を合計した額が、サービス、ソフトウェア、メインテナンスを合計した額をまだわずかに上回っていたが(総売上高785億ドルの51%対49%)、98年においてはそれが初めて逆転している(817億ドルの47%対53%)。しかも、それをもたらしたのはほとんどがサービス部門の伸びによっている。IBMなどをこうも変えてきているサービス(≒ソリューション)とは何かという興味から、いつも調査を委託しているワシントン・コアにお願いしてまとめてもらったものが本報告のタイトルともしている「米国におけるハードウェア・ベンダーのソリューション・ビジネス戦略」という調査である。今回と次回の2回にわけて、同調査を基に、ハードウェア・ベンダーが起死回生を賭けてきたソリューション・ビジネスについて報告してみたい。


1.ソリューション・プロバイダーに進化するハードウェア・ベンダー

(1)ソリューション・ビジネス

過去20年間における情報技術(IT)の爆発的な発達は、各種のITサービス市場にも追い風となって作用した。図1に示すように、ハイテク・エレクトロニクス業界は90年から96年までの間に米国GDP(92年実質ドル)の約5%強から6%強に拡大しており、その伸びの約1%ポイントはもっぱらハイテク・サービス分野の伸びによっている。

 このITサービスの中で特に大きな関心を集めているのが「ソリューション・ビジネス」であり、最も急速な成長を示している。ソリューションは、ITサービスの中でも独自のカテゴリーとして位置付けられており、ハードウェアの販売に付帯する業務や、パッケージとして提供されるデータプロセシングといったサービスは含まない。

 ソリューション・ビジネスとは、高度にカスタマイズされ、顧客サービスの観点を重視した業務であり、その提供にはベンダーと顧客との間に密接なコミュニケーションが必要である。また、顧客企業の事業戦略や組織の上層部といったハイレベルの部分に影響を及ぼすのが普通である。そのため、情報システム部門のバックオフィス機能とだけ関わっていたかつての情報サービスとは異なり、企業の組織全般にわたってサービスが提供される。

図1:ハイテク・エレクトロニクス業界の成長



出典:American Electronics Association

 一般に言われている「ソリューション」は、4種類のサービスの組み合わせによって構成されている。「コンサルティング」、「システム・インテグレーション」、「アウトソーシング」、「サポート・サービス」である。これらのサービスを合わせた企業投資は、IT関連投資の中で最も高い比率を占めている。データメーション誌によると、95年におけるソリューション関連投資額は、全IT投資の27%に相当し、このシェアは85年の17%に比べて大きく伸びている。以下、4つのソリューション・サービスについて簡単に説明する。


1. ITコンサルティング

 ソリューション・ビジネスの中で最も戦略的色彩を持ち、経営、IT両面の戦略立案と実施を行うサービス。高次のソリューションであるため、実施に当たっては、ベンダーと顧客企業経営陣が十分なプランニングを行い、企業内でどのような改革(通常は特定のITを導入しやすくするための改革)を実施し、それらの改革にどのように取り組むかを決定することが必要である。ベンダーのコンサルタントは、改革実施のコーディネーションにも直接参加する。


2. システム・インテグレーション

ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーキング機器などを、数の多少に関わりなく統合化するサービス。コンサルティングと違い、ベンダーと顧客企業との連携内容がテクニカルなものとなるのが特徴で、両者が協力しながら企業の業務プロセスに合わせてハードウェアやソフトウェアのコンフィギュレーションを行っていく。導入するITハードウェアやソフトウェアには、「ベスト・オブ・インダストリー」のコンセプトに従って、数多いベンダーの製品の中から顧客企業の業態に最も適したものが選ばれる。この分野の需要促進に貢献している最も重要なITが、SAP、BAAN、ピープルソフト、オラクルなどが開発しているエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)パッケージである。


3. アウトソーシング

 ソリューション・ビジネスの中で、最も統合化の度合いが高く、長期にわたる関係維持を必要とするサービス。ベンダーにとってのうま味が多く、利益マージンは中規模プロジェクトで15%以上、獲得競争の激しい有名企業との大型契約でも10%に達することがある。アウトソーシングを行うと、顧客企業における特定業務プロセスの運営・管理は、ソリューション・プロバイダーに全面的に移管される。この場合、アウトソーシングされる業務部門で働いていたスタッフは、顧客企業からプロバイダーに移籍するのが普通である。アウトソーシング市場の中で、ITアウトソーシングは極めて高い需要を集めている。典型的サービスとしては、ネットワーク管理、デスクトップ・コンピューティング管理、データセンター管理などが挙げられる。


4. サポート・サービス

 コンピューティング技術やITの業界における歴史が比較的長いサービス。保守、技術アップグレード、ヘルプデスク顧客サポート、トレーニングなどを含む。サポート・サービスがソリューション・ビジネスの中に含められているのは、ベンダー自身が提供したものか否かに関わりなくあらゆるプロダクトを扱うという、独立したサポートになっているからである。この分野は、マージンもそれほど高くはない上、スキルレベルも他の3種類に比べて高度なものではない。しかし、サポート・サービスは現在もソリューション・ビジネスのかなりの部分を占めており、特に時代遅れになったレガシー・システムに関するものが多い。

図2に掲げた各ソリューション・ビジネス業種間の簡単な比較は、それぞれのサービスに技術性や戦略性が占める割合と、顧客との関係を維持する期間の長さとの相関を示している。4者の中で、コンサルティングは最も技術や保守業務の介在する割合が小さいサービスであり、反対にアウトソーシングやサポートになるほど技術の占める割合が高くなる。同様に、ベンダーと顧客との関係も、コンサルティングでは1〜2年と短いが、アウトソーシングやサポート・サービスになると、より長期的なものとなる。

図2:ソリューション・ビジネス各分野の位置付け


©Washington|CORE


 ソリューション・ビジネスの成長は、主にコンサルティング、システム・インテグレーション、アウトソーシングの3分野によって担われている。市場調査機関IDCが実施した全世界のコンサルティング、システム・インテグレーション、アウトソーシングに関する調査によれば、この中でも最も急速に成長しているのがアウトソーシングで、米国においてはシステム・インテグレーションとほぼ同程度の比率に達している(表1参照)。また、コンサルティングは、市場規模こそまだ小さいものの、長期的成長の可能性はアウトソーシングをわずかに上回っている。

表1:ソリューション・ビジネス各分野の市場規模

コンサルティング インテグレーション アウトソーシング
1997年投資額
(全世界) 146億ドル 394億ドル 440億ドル
(米国内) 62.7億ドル 208.8億ドル 202.4億ドル
成長率
(1997年) 15% 11.6% 20%
(2000年まで) 14.7% 11.2% 11.6%


 ソリューション業界がこれほど急速に発達している最大の理由は、あらゆる産業分野(製造、運輸、エネルギー及び公益事業、小売、卸売、金融、官公庁)でコンピュータと情報の活用が急増していることにある。次の図3に、ITソリューションの普及に伴って企業の業態に起こっている様々な変化を挙げる。

図3: ソリューション・ビジネスへの転換
原型 現状 企業例
ハードウェア・ベンダー ソリューション・プロバイダー IBM、ユニシス、ワング
会計事務所 ITコンサル機関 アンダーセン・コンサルティング
防衛納入業者 一般向けアウトソーシング事業者 CSC
航空機メーカー ソリューション・プロバイダー ロッキード・マーティン、ボーイング
PCディスカウント販売業 ⇒ VAR ⇒ ディスクトップ・アウトソーシング エンテックス、バンスター
通信 ネットワーク・アウトソーシング AT&Tソリューションズ
人材派遣 ITコンサル機関 キーンズ

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