99年4月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国情報技術研究開発政策の動向
(IT2の発表)-3-


3.2000会計年度予算要求

99年2月1日に発表された2000会計年度連邦予算案は、R&D関連予算として782億ドルと、99年度予算に比べて10億ドル(1.3%)減というものになっている。しかしながら、クリントン政権の方針を反映して軍事関連R&D予算を削減し、民生対軍事の比率を51対49と初めて逆転させた要求となっている。連邦政府予算のオーバービューという簡潔な資料の中で、R&Dについては主要4項目のみ挙げられているが、その最初に挙げられているのがIT2で、「アメリカの情報革命におけるカッティング・エッジを維持するためのイニシアティブ」と記されている。因みに残る3項目は、基礎研究分野の強化、気候変動関連R&D、試験研究費の税額控除となっている。

情報技術R&Dの予算要求は、下表に示すように計14億6,200万ドルをHPCCに、3億6,600万ドルをIT2に計上しており、総計の18億2,800万ドルは99年度比5億1,400万ドル(39%)増となっている。(IT2発表の際に、ゴア副大統領はIT予算28%増と言っているが、これは99年度HPCC予算13億1,400万ドルに対する伸びであって、実際にはHPCC予算自体が11%伸びていることから、全体で39%増となるのである。)

 なお、PITACによる「ハイエンド・コンピューティング関連研究はHPCCの下で一元管理すべき」との提言を受けて、2000年度予算からASCIがCICの傘の下に入れられることになった。もっとも関係者によっては、ASCIの民生用基礎研究の側面は含めて良いが、核兵器の保全管理というDOEの国防ミッションは区別分離されるべきであるとの見解もあるようである。

FY2000連邦政府IT関連予算要求(単位:百万ドル)

1998年度
実 績
1999年度
推 定
2000年度
要 求
99-00
増減額
99-00
増減率
High Performance Computing and Communications:
Defense 220 168 207 +39 +23%
Health and Human Services 98 111 115 +4 +4%
NASA 120 93 136 +43 +46%
Energy (Civilian programs) 115 126 116 -10 -8%
Energy (Defense - Advanced Strategic
Computing Initiative)
374 484 543 +59 +12%
National Science Foundation 265 301 314 +13 +4%
Commerce 20 27 27 - -
Environmental Protection Agency 3 4 4 - -
Subtotal 1,215 1,314 1,462 +148 +11%
Information Technology Initiative:
National Science Foundation - - 146 NA NA
Defense - - 100 NA NA
Energy - - 70 NA NA
NASA - - 38 NA NA
Commerce - - 6 NA NA
National Institutes of Health - - 6 NA NA
Subtotal - - 366 NA NA
Total 1,215 1,314 1,828 514 +39%
資料:OMB


 HPCC(連続性の関係からか、あるいはHPC法がNGI法で延長されてHPCCという語が復活しているためか、CICという言葉は使われていない)の予算の分野別(HECC、LSN他)の内訳は現時点では発表されていない。ただし、NGI予算については、下表のようにDARPAが1,000万ドル減で要求することをほぼ決めている以外は、全て99年度と同額の要求であり、総計1億ドルになる。

各機関におけるNGI研究開発は順調に進んでおり、むしろマイルストーンを上回っているところもある。NGIテストベッドも、後述するように2000年度中には構築され、その後はネットワーキング研究とアプリケーション開発が継続されることになる。NGI計画は5年計画であるが、現政権はNGI法でも規定しているように2000年度末(クリントン大統領の任期期限)までをコミットしている。その後はさらに2年間NGI法が延長されるか、あるいはLSNの中で進められることになると思われる。

NGI法で規定されているように、PITACの任務の一つにNGIの監督があり、大統領宛ての最終報告も完了したので、現在PITACはNGIプロジェクトの評価に取り組むことにその活動を転換している。その際、PITACはNGIについてFY2000予算プロセスを超える長期的な展望を行うと見られている。

NGI FY2000予算要求(単位: 100万ドル)
連邦機関 FY1998 FY1999 FY2000
DOD/DARPA 42 50 40 (TBD)
NSF 23 25 25
DOE - 15 15
NASA 10 10 10
NIST 5 5 5
NLM/NIH 5 5 5
Total 85 110 100


 ついでのようだが、NGI及びインターネット2のテストベッドについて、最近の進捗が話題になっているので、ちょっと触れてみたい。95年に運営が開始されているvBNSであるが、現行ではOC-12(622Mbps)を実現しており、2000年までにOC-48(2.4Gbps)までグレードアップされる予定となっている。その初めてのOC-48の接続が、図に示されるように99年1月にロサンゼルスとサンフランシスコ間で実現している。また、接続大学/研究所数も150との目標を立てていたが、早くも99年3月15日にそれが実現している。96年5月に最初の接続をジョージア工科大、UCLAなど、準備が進んでいるところから認め始めて以来、徐々に接続数を増やしていき、99年3月15日にはハワイ大やアラスカ大などのややローカルなところにまで及び、合計で150大学/研究所が結ばれたことになる。

インターネット2のバックボーンとして、98年4月、ゴア副大統領の声明としてホワイトハウスから発表された「アビレーン(Abilene)」計画についても、この2月24日に全国運営が開始されている。37大学を結んでスタートしたが、99年内に70以上のインターネット2参加大学及び研究機関が接続され、通信速度もOC-48から、将来OC-192(9.6Gbps)に上げられる。クエストが10,000マイルにわたる光ファイバー・ネットワークを、シスコが通信機器と11のノードの技術支援を、またノーテルがネットワーク設計及び管理をそれぞれ分担して3年間で5億ドルに相当する貢献を行うというネットワークで、vBNSとほぼ同じような経路で都市を結んでいる。ところでこの「Abilene Weather Map」という図は、ネットワークの運営を担当するインディアナ大学が、そのホームページ上で5分ごとにアップデートしているアビレーンのトラフィック状況の図である。画面で見ないと見にくいと思うが、この時点ではサクラメントからデンバーへのトラフィック量が13Mbpsとやや多く、ニューヨークからアトランタ、ヒューストン、ロサンゼルスに至るネットワークのトラフィック量がKbpsのオーダーであって少ないということがわかる。長く見ていても飽きないので、一度ご覧になってみると良いと思う。(http://hydra.uits.iu.edu/~abilene/traffic/abilene.html

 ところで、98年12月に、NSFのAdvanced Networking Infrastructure and Research課からUCAID(University Corporation for Advanced Internet Development)に宛てて書簡が出されている。これはUCAIDの要請に応えるもので、NSFは従来よりvBNSの接続に際してハイ・パフォーマンス・コネクション・アウォードという形で、その接続経費の助成を行っていたが、これをアビレーンにも広げるというものである。もし、大学にvBNSではなくAbileneの接続に切り替えたいという希望があるなら、既に渡した助成金の残額があれば、アビレーンに転用しても良いとまで言っている。ネットワークの盛衰は本当に素早いもので、まだOC-48への拡充を図っているvBNSでも、すぐに時代遅れになって、アビレーンや次に出てくる新たなネットワークに席を譲っていくと言うことなのだろう。


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