99年5月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の近況 -3-


蛇足だが、Y2K情報公開法でもGSA(総合サービス庁)による構築・維持が指示されている政府としてのY2Kのウェブサイト(http://www.itpolicy.gsa.gov/mks/yr2000/y2khome.htm)が、ダウジョーンズ社によって、質と情報の豊富さで優れた「ビジネス・ダイレクトリー」であると評されている。しかし、その中のインターナショナル・ダイレクトリーというところに日本へのリンクが一つもないのである。世界40ヶ国ほど、アジアではホンコン、マカオ、韓国、マレーシアがリンクされているのにである。後述するように、日本のY2K対応が遅れているのではないかと見られてしまう原因もこんなところにあるのではないだろうか。

さて、8次報告に掲げられた連邦政府機関毎のY2K対応状況は以下の表のとおりであるが、併せて3月末日の状況も表の右側に示してみた。これは、連邦政府のY2K対応期限、3月31日を迎えて、コスキネン議長が以下のようなプレス発表を行っているところによる(http://www.y2k.gov/new/0331PRL2.htm)。表の左右を比較して見るとわかるように、わずか6週間の追い込みで、全体の対応状況が79%から、92%へと13%ポイントも上がっており、また100%対応機関も5機関から13機関へと増えている。全部が期限に間に合わなかったとは言え、なかなかの頑張りようだと思うのだが。

  • 24連邦機関のミッションクリティカル・システム(6,123)のうち、92%が3月末の時点でY2K対応が済んでいる。

  • 24機関のうちの13機関は、そのシステムの100%が対応済みとなっている。国際開発庁を除く残りの機関も85%以上が対応済みとなっている。

  • 以下の4点が年末までのプライオリティとなる。

    1. ミッションクリティカル・システム及び他のシステムのY2K対応を完了する。
    2. 外部の機関と接続するなどした上でのエンド・ツー・エンドのテストを協力して行うとともに、政府にとってクリティカルな州や他の機関と連携した連邦政府のプログラムのY2K対応についてデモンストレーションを行う。
    3. ビジネスの継続性と、万一Y2K関連の問題で連邦サービスに中断が起こった場合の保険としてのコンティンジェンシー・プランについて、その完成を図りテストを行う。
    4. 公共や民間の非連邦政府機関に対し、問題への対応とコンティンジェンシー・プランニングの促進のためのアウトリーチ活動を継続する。

  • 6月に発表予定のOMBによる第9次の連邦政府Y2K進捗状況調査に、上記4点のプライオリティの進捗状況を反映する。

  • OMBが先週明らかにした、米国民の健康、安全、福祉に直接影響のある連邦政府の42のプログラムについて、9月までにエンド・ツー・エンドのテストを完了するように関係連邦機関に勧告されたが、各機関は4月15日までにOMBにそのテストの計画などを提出する。


OMB第8次報告及び3月末時点の各連邦機関のY2K対応進捗状況

第8次レポート(2月12日時点) 3月31日時点
システム数 既対応 既対応比率 廃棄又は交換待ち 対応中 対応コスト(mil.$) 評価 システム数 既対応比率
農務省 353 267 76% 42 44 175 2 352 93%
商務省 474 409 86% 28 37 120 2 474 97%
国防総省 2306 1670 72% 144 492 2610 2 2038 88%
教育省 14 13 93% 0 1 40 3 14 100%
エネルギー省 420 357 85% 43 20 205 2 420 98%
厚生省 289 250 87% 8 31 782 1 289 91%
住宅都市開発省 56 55 98% 1 0 62 3 56 100%
内務省 90 86 96% 0 4 78 3 90 100%
司法省 221 190 86% 7 24 150 2 221 93%
労働省 61 52 85% 3 6 55 2 61 100%
国務省 59 36 61% 18 5 180 2 59 85%
運輸省 608 321 53% 54 233 294 1 608 85%
財務省 321 266 83% 21 34 1534 2 314 93%
復員軍人省 319 309 97% 1 9 203 3 319 100%
国際開発庁 7 0 0% 2 5 48 1 7 0%
環境保護庁 57 57 100% 0 0 37 3 57 100%
緊急管理局 46 41 89% 3 2 20 3 46 100%
総合サービス局 58 56 88% 1 1 33 3 58 100%
航空宇宙局 157 136 87% 8 13 47 3 157 99%
原子力規制委員会 7 7 100% 0 0 10 3 7 100%
全米科学財団 17 17 100% 0 0 1 3 17 100%
人事局 109 100 92% 4 5 16 3 109 100%
中小企業庁 42 42 100% 0 0 14 3 42 100%
社会保障庁 308 308 100% 0 0 40 3 308 100%
合 計 6399 5045 79% 388 966 6754
6123 92%



(3)中小企業のY2K対応支援

99年4月2日に、クリントン大統領は「小規模企業Y2K対応法(Small Business Year 2000 Readiness Act)(Public Law 106-8)」に署名した。同法案は99年1月27日に、クリストファー・ボンド上院議員(共和党、ミズーリ州)が提出し、スピード可決されたもので、2000年末までの非常融資について中小企業に5億ドルの政府保証を与えるというものである。最近の全米独立企業協会の調査では、全米で475万の小規模企業主がY2K問題に直面しているが、そのうちの75万は深刻な事態に立ち至る恐れがあるという。法案は従業員数5人〜25人ぐらいの小企業が平均25,000ドル程度の融資を申し込むとの想定に立っている。

同法の成立を受けて、小規模企業庁(SBA)は新たな「Y2Kアクション・ローン」制度をスタートした。ローンは小規模企業がY2K対応に係る費用(ハード、ソフトの改修及び購入費、コンサルティングなどの費用、そして2000年1月1日以降はY2K問題で深刻な経済的打撃を受けた場合の救援資金を含む)を貸与するもので、10万ドルまでは90%、10万ドル超(75万ドルが上限)は85%の政府保証が付くというもの。その他に、融資期間や条件について可能な限りフレキシビリティーを与え、元本返済の猶予も1年まで認めるなどの特典があり、昨年10月以降に別の融資制度で貸し出された融資も、こちらに切り替えることができるようになっている。

ところで、経済的打撃への救援資金が借りられるとなると、何もしないで2000年を待って、もし障害が起きたら融資を申し込めば良いのではないかなどと考える経営者も出てきそうな気がする。現に法案審議の過程ではそのような懸念の声もあったようであるが、結局、資金不足のためにY2K対応が遅れている小企業のための法案に反対投票する議員もいるはずもなく、満場一致で上下院を通過している。

 中小企業向けには、SBAのY2Kホームページ(http://www.sba.gov/y2k)を見ると、この融資のほかにも様々なプログラムがあるのがわかるが、この分野では日本も決してひけをとるところではないので、特に述べることはしない。一つだけ、この3月29日から4月2日まで、"Is Your Business Y2K OK?"というキャッチフレーズで、小規模企業Y2Kアクション・ウィークが開催されたことについて触れておく。昨年の10月にもアクション・ウィークは開催されたが、関係者にも聞いてみたが、そのときは広報の仕方などがあまりうまくなく盛り上がりに欠けたということであったが、今回は危機感も強まっており、2回目ということもあってなかなかの盛況だったようである。イベントの中心は地域のSBAオフィスやNISTのMEP(Manufacturing Extension Partnership)センターなどが開催するセミナーで、アクション・ウィーク中は全米中で毎日開催されていた。もちろん、セミナーに参加できなくても、セミナーの資料などはMEPのウェブサイト(http://www.mep.nist.gov)からダウンロードできる。

もう一つ、4月13日に商務省のウィリアム・デーリー長官が発表した、世界の中小企業を対象としたY2K問題の国際協力キャンペーンについて触れておこう。このキャンペーンの内容は以下のようになっている。
  • Y2K情報及び解決方法についての意見交換のための世界中でのY2Kコンファレンスの開催。

  • 8カ国後で作成した「Y2Kセルフヘルプ・ツール」30万コピー(CD-ROM)の100カ国以上への配布。(これは上述のMEPのウェブサイトでダウンロードできるものと基本的には同じもののようである。)

  • 2種類のY2Kビデオの作成配布(10分間の会議・プレゼンス用の外国語版と60分間の米国の公共放送版)。

  • 商務省のY2Kウェブサイトを通じた有益な情報提供と、他のY2Kサイトへのリンクの提供。
 3月31日に、デーリー長官がインフラストラクチャー貿易ミッションを引き連れて訪れた上海において、第1回となるコンファレンスが開催されている。これらを通じて米国は米国の貿易相手国の中小企業のY2K対応を促進し、米国とのサプライチェーンの緊密化を図っていくことを狙いとしているように見える。

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