99年7月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国における電子商取引の最新動向 「トランズアクショナル」から「リレーショナル」へ -1-


はじめに

インターネット上での電子商取引(EC)は急ピッチで普及しており、世界最大規模の書籍店舗を誇るアマゾン・ドット・コムや、一日1,800万ドルに上るウェブ販売をするデル・コンピュータなど、成功事例は後をつきない。これらの成功事例に見られる要因として、ECを長期的観点から顧客との関係強化を目的としたECを実践している点が挙げられる。顧客との関係作りに重点を置くこのような考え方は「リレーショナルEC」と呼ばれ、米国の電子商取引の一大トレンドとなりつつある。従来、企業は、コスト削減や購買活動の利便性を狙ってECを構築・実行しており、長期にわたる顧客との取引関係構築という観点からはあまり注意を払ってこなかった。「リレーショナルEC」に対し、このような従来の考え方は「トランズアクショナルEC」と呼ばれている。今回は米国の各業界のEC実践リーティング・カンパニーの例を挙げながら、「トランズアクショナルEC」から「リレーショナルEC」へと進化する米国のECの最新動向を分析する。なお、本レポートはワシントン・コア社に依頼して作成してもらった報告を基にして作成するものである。


1.急激に成長する米国の電子商取引

米国における電子商取引は爆発的な拡大を続けているが、米政権はこの経済的インパクトを重要な研究課題と位置付け、昨年4月の「エマージング・デジタル・エコノミー」の発表から、その解明に取り組んでいる。この6月22日、商務省はその第2弾、「エマージング・デジタル・エコノミー U」を発表している。まずは、その概要を見ることで、米国のECの現況を知ることが適当であろう。


「エマージング・デジタル・エコノミー U」(エグゼクティブ・サマリー仮訳)

 デジタル・エコノミーの二つの面、すなわち「エレクトロニック・コマース」と「ITインダストリー」は、驚異的なスピードで成長し、変化を遂げ、米国の生産、消費、通信、娯楽の方法を基本から変えつつある。

  • ECの可能な計測での成長は昨年の最も楽観的な予測をも上回っているが、経済における消費のシェアでは、ECはまだ極めて小さく、1%以下に過ぎない。

  • ECを可能にしているIT産業(コンピュータ・通信ハードウェア、ソフトウェア、サービス)はこの成長のプロセスに戦略的な役割を果たしている。95〜98年で、これらIT産業はGDPの8%を占めるに過ぎないが、経済成長には平均で35%の貢献をしている。

  • 96、97年において、IT産業における価格低減は、インフレ率を0.7%ポイント下げ、歴史的な低失業率下でインフレをコントロールし、低利率を維持しているという驚くべき米国経済の能力に貢献している。

  • IT産業は異常とも言うべき生産性向上を達成してきた。90〜97年において、ワーカー1人当たりのグロス・プロダクト・オリジネイティング又は付加価値生産額(GPO/W)でIT産業は年率10.4%の成長を経験した。中でも製品の製造分野では23.9%もの成長を遂げた。結果として、トータルの民間の非農業経済におけるGPO/Wは1.4%を達成し、一方で非IT産業は0.5%という緩やかな伸びに留まった。

  • 2006年までに米国の労働人口のほぼ半数は、ITの製品やサービスの主要な生産者か大消費者に雇用されるであろう。技術革新はコンピュータ科学者やエンジニアなどの高給をとる「コアITワーカー」の需要を高め、新しいIT職種を産み出し、非IT職種のスキル要求を変化させ、多くの他の職の最低限のスキル要求を引き上げてきた。IT産業と他の産業のワーカーの賃金格差は拡大しつつある(97年で53,000ドル対30,000ドル)。

  • インフォメーション・テクノロジーの浸透、その生産者や消費者への利益の多様性、デジタル世代における経済変化のスピードは、経済パフォーマンスの確立された指標の限界を試しつつある。連邦政府の統計関連機関はデータ収集と分析の手法を向上させてきているが、成すべきことはまだ多く残されている。

以上が概要であるが、ECの経済的インパクトを知るという意味からは、まずECの成長を計測する必要がある。この報告では「最近のECの急速な成長により、民間における昨年段階の見通しは全て上方修正されている。昨年初めの報告では2002年までにB to Bが3,000億ドルになるとされていたが、例えばフォレスターリサーチは2003年までに1.3兆ドルと予測している。同様に昨年初めにB to Cは2000年までに70億ドルとされていたが、このレベルは既に98年中に超えてしまったと見られ、70〜150億ドルの範囲であったと推定される。そして、2002年までに4,000〜8,000億ドルのレンジに入ると予測されている。」としている。ここで引用されたフォレスターリサーチの予測(98年12月)を以下に掲げておく(図1)。



 この6月にインテルのバレットCEOが「インテルだけでも99年は150億ドル程度をオンラインで売り上げる見込みであり、民間の見通しはまだ過小ではないか」との趣旨の発言をしているように、これらの予測数値にはあまり信頼が置けないかもしれないが、各調査会社のECの将来に関する分析は極めて興味深い。IDCは、大企業が電子商取引の中心となり続けると予測している。一方、フォレスターリサーチは、現在のオフライン取引と同様、製造業界と卸売・小売業界がB to Bでも独占的な位置を占めるようになっていくと見ている。両社とも「インターネットがあらゆる世代にまんべんなく普及するに従い、オンライン取引もオフライン取引と大して変わらなくなるであろう」と述べており、通常の販売活動と電子商取引の差が次第に少なくなっていくというのが共通の分析である。(図2)

図2: 推定される電子商取引の担い手


一方、一般消費者対象の電子商取引を分析する上で興味深いのは、ウェブで得た情報を基にオフラインで買物をする消費者が非常に多いという点である。商務省報告ではこの点について、「インターネットは、オンライン上で完結した以上の大量のトランザクションに重要な役割を果たしている。顧客はオンライン上で品物を選択・注文してオフラインで支払うのみならず、オフラインでの注文と支払いに影響を与える選択のための重要なソースにもなっている。特に自動車の場合などがそうである。サイバー・ダイアログ社は98年の消費者の購買に与えたインターネットのインパクトとして、オンラインで注文と支払いが成されたのが110億ドル、注文がオンラインで支払いがオフラインのものが150億ドル、インターネットがオフラインでの注文に影響を与えたものが510億ドルあったと推定している。」と分析している。

 また、フォレスターリサーチによると、電子商取引で取り扱われる商品については現在はパソコン関連が市場の4割ほどを占めているが、今後、航空券販売がトップに躍り出る可能性が高いとしている。また、その他のエンターテーメント関連チケットなどのシェアも増えていくものとみられている。(図3)


図3:電子商取引で取り扱われる商品(フォレスターリサーチ)

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