99年7月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国における電子商取引の最新動向 「トランズアクショナル」から「リレーショナル」へ -3-


4.ECの問題点

 ECの成功事例が続々と登場する一方で、多くのウェブサイトがその可能性を十分に活かしきれていない。ECが成功しない要因としては、大きく分けて以下の3点が挙げられる。

@切断されたECモデル(Truncated EC Model)

 まず、「切断されたECモデル(Truncated EC Model)」と呼ばれる、購入までに必要な貫徹したウェブ機能を備えていない、機能が切断されてしまっているウェブサイトが多いという点が挙げられる。フォレスターリサーチによると、消費者がある製品/サービスの購入を完了するまでのサイクルには、1)何を購入したいか決定する、2)製品や価格に関する情報を収集して比較する、3)どの製品・サービスを購入するかを決定する、4)製品・サービスの注文、支払い、配達を手配する、の4つの段階があるという。しかし、購入までに必要なこうしたサイクルを、すべてスムーズに行えるウェブサイトは稀である。例えば、ウェブサイトで製品に関する情報は多く掲載していても、それ以外の質問に対する回答は全く掲載されていなかったり、購入する製品・サービスを決定しても、実際の注文は電話やファックスの助けを借りなければならなかったりする。更に、電話をした場合、長い間待たされるケースも実際に多い。これらは、電子的なトランザクションを完了させる機能に欠けたウェブサイトといえ、理想的な電子商取引と呼べる段階にはほど遠い。

 AnswerThink Consulting Groupによると、ECウェブサイトの“発達”には、次の5つの進化段階があるという。

 第1世代:会社の情報のみを掲載する(“Brochureware”)
 第2世代:電子カタログを掲載する、利用者の情報を収集する
 第3世代:ユーザーとのインタラクティブなやり取りや実際の取引ができる
 第4世代:マルチメディアコンテンツの導入。ワークフローと統合された取引を実行する
 第5世代:複数のプラットフォームによる掲載が可能、顧客ごとのカスタム化が可能となる

 しかし、ECウェブサイトの多くは、次項でも触れるように、発達段階に応じた自社内の情報システムとの統合に失敗しており、潜在性を十分に引き出せていない。自社内の情報システムにうまく接続されていないため、ウェブは「第4世代」であっても、機能的には第1、2世代のレベルしか、発揮していないケースが多いというわけである。また、数字的にみても、第5世代に属する企業のサイトは全体の2%程度しかないことも指摘できる。

図4: “世代別”電子商取引ウェブサイト(AnswerThink Consulting)


A未熟なECウェブサイトの管理・実践

 ECが成功しない2番目の原因は、ECウェブサイトの多くが社内の情報システムとの統合に失敗し、ECウェブサイトの管理・実践がうまく行っていない点である。電子商取引を行なっている企業の多くは、EC管理業務を情報システム担当者の管理下に置いている。営業・マーケティング部門は、ECウェブサイトの開発をサポートするものの、ウェブからの販売実績に関しては直接的な責任を問われることは稀であり、最終的な売上結果の責任は、情報システム部がとることになっている。これでは、ECサービスを改善・推進しようというインセンティブが他部門では生まれないという結果になってしまう。最近は、ちょうど企業内イントラネットの管理が各部門でそれぞれに分担されているのと同様に、事業部門にECサイトを開設し、企業内でECによる業績の責任を分散させる動きもあるが、一般的に対応は遅いといえる。

 これらの問題を解決するための一つの動きとして、ECを「統合エンタープライズ(Integrated Enterprise)」の一貫として捉えようという動きがある。統合エンタープライズとは、企業内で、生産から経理、ロジスティックス、人事、販売に至るまで、全てのコンピュータインフラやアプリケーションを接続し、取引に関するデータ入力を一度で済ませ、社内のどの部門からでもデータにアクセスできるようにするという概念である。統合エンタープライズには、SAP社の「R/3」パッケージなどの統合業務パッケージ(ERP)の導入が不可欠である。これまではERPソフトウェアの多くがプロプラエタリーなシステムのために設計されてきたが、最近では、ERPソフトウェア会社はウェブベースのシステムに接続できるようなミドルウェアの開発を進めている。ECサイトとERPを組み合わせれば、ウェブから取引を行なうことが可能になるだけでなく、注文、配達、請求などが適切に行われたかなどの関連情報を確認できるようになる。

 ウェブECのトレンドの一つに、この概念の上に立ったEmbedded Extranet(埋め込まれたエクストラネット)の構築がある。これにより、統合エンタープライズの概念を応用し、自社の情報システムを取引先の社内用システムと接続するEmbedded Extranetを構築するために、ウェブを利用するところもある。従来、接続メカニズム構築にはEDIが利用されてきたが、最近はこのようにウェブECが利用されている。これらのシステムでは、企業のウェブサイトは企業内のアプリケーションに接続されているだけではなく、取引先のウェブサイトに内臓されているアプリケーションにも接続される。

 Embedded Extranetの例に、シスコ・システムズのECウェブサイトがある。同サイトはフェデラルエクスプレスのウェブベースの小包トラッキングシステムと接続されている。これにより、以前はそれぞれのサイトに別々に行かなければならなかった場合もシスコのサイトから単一で処理できるようになった。Embedded Extranetとして接続される前は、例えば、シスコの顧客がシスコから注文した製品の発送状況を確認するためには、まずシスコのサイトに行ってトラッキング番号を入手し、その番号情報をもとに、フェデックスのサイトから発送状況を調べるという形になっていた。接続後は、その手間が省け、ECソフトが自動的に発送されたかを確認し、発送される場合はフェデックスサイトに自動的にリンクして発送状況をカスタマーに知らせるようになっており、カスタマーにとっては2つの企業が関与する機能も、“統合された企業”が単一で行うに等しいプロセスのように見える。

 こうした「ウェブ上で統合された企業」を作り上げるには、Javaベースのアプリケーションツール、ウェブ・ツー・ホストのミドルウェア、ウェブEC用サーバーソフトなどの複雑な技術やシステムが必要となる。更に、ECの導入には、企業内システムとウェブを接続するのに十分な安定性、高速インターネット接続、万全のセキュリティ対策などが不可欠となる。しかし、こうした複雑でコストや手間のかかる業務を社内で行なえる企業は非常に少ないうえ、ECシステムをコア・コンピタンスにする企業はほとんどない。このため、多くの企業がECウェブサイトの管理・運営を外部のプロバイダーにアウトソーシングしている。

 ECシステム管理のアウトソーシングを手がけるベンダーには、EDS、アンダーセン・コンサルティングなどの大手システム・インテグレーターをはじめ、Enterprise Service Provider(ESP)と呼ばれる新規ベンダーがある。ESPとは、企業顧客に対し、基幹業務に関わるウェブアプリケーションの導入・管理サービスを提供するプロバイダーを指しており、エグゾダス・コミュニケーションズ(Exodus Communications)やUSインターネットワーキング(US internetworking)などがある。

 カリフォルニア州に本拠地を置くエグゾダス・コミュニケーションズは、ナショナル・セミコンダクターやヤフーを初めとする有力企業のECウェブサイトの管理・運営を行なっている。また、メリーランド州に拠点を置くUSインターネットワーキングは、ERPやカスタマーケアなどの企業用アプリケーションのレンタルを手がけている。ECサービスのアウトソーシングは、EC市場全体が更に拡大を続ける中、益々成長していくとみられている。


Bポータル・サイトへの過度の依存

 ECが成功しない第3の要因に、広告費のポータルサイトへの偏重がある。電子商取引の最近のトレンドとして、EC戦略としての「ポータル」(AOL、ヤフー、ライコス等)の浮上がある。ポータルは巨大なオンラインコミュニティーを反映していると見なされており、企業の多くが、ポータルサイトにリンクをつけることでかなりの量のトラフィックの流れを自分のECウェブサイトに向けさせる効果があると信じている。しかし、現実的には必ずしもそうではない。まず、大抵のポータルサイトはECコミュニティーではなく、ウェブユーザーが行きたいウェブサイトを検索するためのストップポイントに過ぎない。ユーザーが検索サイトやディレクトリサイトを利用して行きたいサイトへログオンするまでの平均時間はわずか数分とされており、広告を通して企業のECサイトに入り込むケースは非常に希である。ほとんどのユーザーはTVコマーシャル、新聞・雑誌などの従来の広告媒体や口コミなどを通して企業のECサイトの存在を知り、そのサイトを直接に利用する場合が多い。このため、ポータルサイトからのリンク付けなど、ポータルサイトへの投資を中心とするオンラインEC戦略は、実はコスト効果が低いと思われる。

 ポータルサイトに関連し、問題となっているのは、ウェブ広告にはかなりのコストがかかるにも拘わらず、それによる売上業績などの具体的な結果を正確に測定できるような指標に欠けることである。eMarketerの発表(99年6月)によれば、99年はトップ10サイトで全オンライン広告の74%を、トップ50サイトでは95%をも押さえると言うが、これは2つの効果を生み出している。まず、注目を集める力が強いサイトほどその市場価値のいかんにかかわらず、経済価値の高いサイトと見なされるようになった。次に、ウェブ広告への投入額がトップ50サイトに集中していることは、ウェブ広告にふさわしいとして投入されていない何万というサイトが存在し、その中には企業が販売したい製品やサービスを望んでいるユーザーが頻繁に利用するようなサイトも含まれている可能性が高く、ウェブ広告投入額が効果的な投資を示しているとは言えない。

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