99年9月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるブロードバンドの進展 -3-


(3)AT&Tのライバル側の動き

ここで、少しAT&Tのライバル側の対応についても見ておきたい。

99年2月3日、全米の主要なISPが集まり、全てのブロードバンドを通じたインターネット上の、開放性、消費者の選択、そして競争を確実なものとすることを目的として、「OpenNET Coalition」(www.opennetcoalition.org)を結成している。メンバーとしては、USウエスト、MCI WorldCom、AOL、Prodigy、Netscape等を始めとして400以上のISPが名前を連ね、また共同会長として、ゴア副大統領の前内政担当主席補佐官のグレッグ・サイモン氏と、前共和党全国会議議長のリッチ・ボンド氏というD.C.でのロビーイングには最強となる体制を整えている。

これが功を奏してか、ポートランドなど地方当局や議員などが次々とオープン・アクセスののろしを上げているのであるが、このオープンネット連合の次の狙いは、もちろんAT&Tのメディアワン買収の承認阻止(ができなくとも、少なくともオープンアクセスなどの条件付きの承認)に持ち込むことにある。

8月18日付けNYT紙は、「AT&T's Planned Mediaone Deal Poses Test for U.S. Cable Policy」と題して以下のように伝えている。

「AT&Tのメディアワンの買収について、FCCと司法省が審査中であるが、「コンシューマーズ・ユニオン」、「コンシューマー・フェデレーション・オブ・アメリカ」、「メディア・アクセス・レポート」の3消費者団体が、司法省に対して「この買収はケーブルテレビとブロードバンド・インターネット・サービスの価格を跳ね上げ、両市場の活発な競争を阻害することになる」との意見書を提出した。これに対するAT&Tの中心的な反論は、「AT&Tのケーブルによる地域電話市場への参入は、数社のベビーベルが独占してきた地域電話市場に競争をもたらし、消費者に大きな利益を与えることになる。」と言うもの。しかし、米国におけるケーブル網の所有については、1社が全米家庭の30%を超えてケーブルを持ってはいけないとのガイドラインがあり、FCCが現時点ではボランタリーにこれを留保しているとはいうものの、これを再検討しなければならない状況になっている。消費者団体によればAT&Tのケーブル占有率はメディアワンの買収が成立すると57%にもなり、はなはだしい反トラスト法違反であると言う。AT&Tはひそかにこのガイドラインの変更をFCCに要請しつつも、消費者団体はこのマーケットのサイズを見誤っており、またAT&Tがベルや衛星会社との高速インターネット・サービスで競合するとの認識に欠けていると反論している。」

これらの消費者団体に火をつけたのも、オープンアクセス連合ではないかと思われるが、自身も8月24日にFCCに対して、以下のような意見書を提出している。

「オープンアクセス連合は、AT&Tのメディアワン買収は、そのケーブル・ネットワークのISPへの開放が成されなければ拒否されるべきであることを、FCCに求める。この買収が認められると全米のケーブルを入れている家庭の65%にまでAT&Tがサービスを提供することになり、さらにタイムワーナーとの提携関係を考えれば、その影響力は昔のベルを凌ぐものにもなる。FCCはインターネットの発展のためには電話の利用者がどのISPをも選択できることであるとしているが、同じ原則をケーブルにも適用すべきである。AT&TとTCIのフランチャイズ権移転承認でポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルス、マイアミ、フロリダ州のブロワード郡などが地域での戦いをしているが、メディアワンの買収では、ボストン、ミネアポリス、リッチモンド、デイトンなど、別の地域がAT&Tの独占を許すべきかの検討を始めつつある。」

このように、AT&Tのメディアワン買収については、より一層それに対する攻撃は熾烈になっている。FCCは審査中であるためポジションを明確にはしていないが、ケナード委員長は慎重な態度を示している。それは、規模もさることながら、後述するように現在ケーブル・モデムによるインターネット・サービスを複占している@ホーム(TCI傘下)とロードランナー(メディアワンとタイムワーナーが2大出資者)が、両方ともAT&Tの傘下に入ることになってしまうというところにある。8月には、戦いの当事者同士のAT&TとAOLが提携するのではないかとのニュースも流れたが、AT&Tは即座にエクサイト@ホームとの排他的な提携関係は長期的に尊重していく旨の声明を出して、これを打ち消したりしている。と言うことで、この買収を巡っては、これから半年以上は様々な議論が戦わされるのだろう。


話があちらこちらに飛ぶが、AT&Tの派手な動きの影で、やや動きが目立たなくなっているILECであるが、ベルアトランティック、SBCコミュニケーションズ、ベルサウス、GTE、アメリテック、USウエストの6社にまで集約されてきて、さらに、SBCのアメリテック買収(98年5月発表)、ベル・アトランティックとGTEの合併(98年7月発表)が認可待ちとなっている。AT&Tとしては、彼らがADSLを急ぐことはやむを得ないこととしても、地域電話で勢力を拡大し、長距離電話に参入してくることを大変警戒しており、ことある毎に牽制球を投げている。AT&Tが年間全米1,000億ドルの市場を狙っているのとたすきがけで、ベビーベルは年間900億ドルの長距離市場を狙っているのである。例えば、6月8日には、アメリテックとUSウエストがクエスト・コミュニケーションズの長距離電話サービスを提供しようとしてFCCに却下され、控訴していた件が、連邦控訴裁によって再び却下されたが、これに対して早速声明を出している。すなわち、「両社が通信法をかいくぐって自らの地域市場を開放することなく、長距離市場に参入して、地域市場の独占を強化しようとした試みがついえ去った」のだと手厳しく批判である。

また、AT&Tは、6月30日にインディアナ州の通信規制当局がSBCのアメリテックの買収問題に関してヒアリングをするに際して、「両社の合併で13の州で電話回線の3分の1以上が合併後の会社に押さえられることになり、地域の独占の弊害が益々強くなるので、これを拒否すべき」との声明を送っている。さらに、ベル・アトランティックのGTE買収に関しても、7月22日、AT&Tはペンシルバニア州の通信規制当局が審査をするのに際し、「ペンシルバニア州民が地域電話会社を選択できる権利を残せるような判断を下されるべきである」との意見書を提出している。7月18日にはクエストとUSウエストとの合併が本決まりになったが、新生クエストがUSウエストの地域市場をどのように開放しつつ、総合通信企業に変身していくのかは未知であるが、AT&Tにとってはそれこそ悪夢のようなものかもしれない。いやはや、大変シビアな争いである。

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