99年10月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるインターネット取引標準 -3-



3.業界別のインターネット取引標準

(1) 金融業界

 米国金融業界では、インターネットによる取引が非常に活発に行われており、そ れに伴いインターネット取引の標準も多く登場している。これらの標準は、オンラ イン・バンキングや証券取引など、特定の金融業務をターゲットとしており、主要 なものとしては、1)OFX、2)FIXML、3)FinXMLの3つが挙げられる。


1)Open Financial Exchange(OFX)(www.ofx.net

OFXは、顧客と金融機関の間におけるインターネットを利用した金融データの 交換を可能にする標準である。この場合の金融機関は、銀行のみでなく、信用組合、 クレジットカード会社、証券会社なども含まれる。OFXは97年初めに、チェック フリー、イントゥイット、マイクロソフトの3社が共同開発した。また、開発段 階においては、チェースマンハッタン銀行、ウェルズファーゴ銀行、シティバンク、 チャールズシュワブ、フィデリティ・インベストメントといった金融機関大手が参 画した。

 OFXの目的は、消費者や中小企業などの顧客が、インターネットへのアクセス を持つPCを利用して金融機関と直接データ交換を行い、電子的に財務管理を行う 環境を整備することにある。こうしたオンライン・バンキングを利用し、現在、米 国では200万世帯にのぼる消費者が自宅のPCからあらゆる財務手続きや管理を 行っている。調査会社のタワーグループによると、2001年までにオンライン・バン キングを実施する世帯数は2,000万を超えるとされ、オンライン・バンキングを提 供することが金融市場で生き残るための必要最低限の条件となると予測している。

 OFXには、1.OFX言語と2.OFXフレームワークの2つのコンポーネンツがある。 OFX言語は、銀行や証券取引業務で頻繁に使われる用語をカバーしており、現在、 カバーしている金融業務には、銀行口座情報、明細書、クレジットカード情報、口 座間・銀行間の振替、証券取引の報告などがある。OFXのフレームワークは、1.イ ンターネットアクセスのあるコンピュータを持つ顧客、2.顧客のPCに搭載される OFXソフトウェア、3.顧客から転送されるOFXの要請を受理して処理するシステ ムを持つ金融機関の3つから構成される。仕組みとしては、顧客がPCからサービ ス要請を入力すると、その要請がインターネットを通して金融機関に送られる。要 請はその後、金融機関のOFXサーバー・ソフトウェアに転送され処理される。処 理された結果は再びインターネットを通して顧客のPCに送られる。OFXのデス クトップ用パッケージには、イントゥイットの「Quicken」、マイクロソフトの 「Money」「MS Investor」などがある。

 OFXを利用すると、顧客や金融機関は利用しているプラットフォームに関係な く自由に情報交換が実施できる。また、セキュリティに関しても細心の注意が払わ れており、公開鍵などの暗号技術が利用されている。OFXのソリューション・プロ バイダーとしては、マイクロソフトやイントゥイットの他に、アンダーセン・コン サルティング、インテリデータ、サイベースなどが挙げられる。


2)FIXML (www.fixprotocol.org/

FIXMLは、証券取引におけるリアルタイムの電子情報交換における標準「FIX (Financial Information Exchange)」にXMLを取り入れた標準である。FIXは、 欧米の証券会社が共同開発した国際的な標準であり、証券業界における電子情報の 交換を促進するツールとして注目を集めている。OFXとFIXはきわめて似通った プロトコールであるが、OFXが個人の金融取引に焦点を当ててスタートしたのに 対し、FIXは金融機関側の要請からスタートしていると言う差異がある。また、 技術的にはOFXはHTTPのような要請/返答タイプのプロトコールであるのに対 し、FIXは接続セッション・ベースのプロトコールである。

 FIXは、単一の組織や団体が管理しているわけではないため、柔軟性や拡張性 に富んでおり、FIXを採用する企業のニーズに対応して変更できる点が特徴であ る。さらにFIXは、特定のベンダーの製品に傾倒することなく、細かな仕様まで 厳格に設定することを避けている。こうした特徴は、FIXに柔軟性を持たせると いう利点がある一方で、細かな仕様があいまいであるため採用する企業によって大 幅に対応の仕方が異なるという欠点も生み出している。

 FIXMLは、こうしたFIXの特徴を損なうことなく新たな機能を付加する言語と して開発された。FIXMLは、XMLをベースとした階層的メッセージ・フォーマッ トであるため、転送するデータ間の関係を明確にし、定義付けにおける曖昧な部分 を取り除くことができる。また、FIXがさらに普及し、データ交換セッションの 数が増加すると、膨大な量のデータ転送を行える専用線を利用するなどコストが非 常に大きくなるが、FIXMLではウェブベースのアプリケーションを利用するため、 コストを低く抑えることができる。

 99年の初めに発表されたFIXMLは、証券取引のインターネット化を促進させ るとして大きな注目を集めている一方、実際の導入は当初の予想ほど進んでいない のが現状である。FIXMLの推進を目指す「FIX XMLワーキンググループ」の会 長であるソロモン・スミス・バーニーのジョン・ゲーラー副社長は「金融機関の多く は、西暦2000年問題などの対処で精一杯であり、FIXMLのパイロットに参加す るだけの余裕は持ち合わせていないようだ」と述べている。同氏はさらに「こうし た状況を打開するためには、FIXMLの利点を明確にし、金融機関に積極的に売り 込んでいくしかない」とコメントしている。金融機関サイドは、発表されて間もな いFIXMLのパイロットに参加するのはリスクが高いとみており、今後、どのよう に発展するかを静観している状況である。


3)FinXML (www.finxml.org

FinXMLは、資本市場におけるデータ交換の標準として開発されたXMLベース のフレームワークである。99年5月、リスク管理システムの大手プロバイダーで あるインテグラル(www.integral.com)によって開発されたFinXMLは、異なるアプリケーション間の情報交換を可能とし、資本市場における電子商取引の可能性を大幅に拡大した。

 FinXMLの仕様や言語の定義は、FinXMLコンソーシアムが手がけている。 FinXMLコンソーシアムは、チェースマンハッタン銀行といった金融機関、サン・ マイクロシステムズなどのITベンダー、さらにシステム・インテグレーターなど から構成されており、同コンソーシアムのウェブサイトには、FinXML関連の最 新ニュースが掲載されているほか、コンソーシアムの会員企業にはFinXMLの最 新言語なども提供している。

 FinXMLは、資本市場における言語の定義付けを行ったり、それらの言語を利 用するアプリケーションの開発を行うフレームワークとして機能する。現在、 FinXMLは、外国為替、デリバティブ、国債、資金借入といった幅広い金融商品 をサポートしている。FinXMLの言語は、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA =International Swaps and Derivatives Association)が開発した標準に基づいて おり、FIXなどの他の金融取引標準とも互換性がある上、cXMLなどの他の業界に おけるインターネット取引標準とも互換性がある。

 FinXMLのアプリケーションとしては、企業のリスク管理やオンラインでのカ スタマーサービスなどが挙げられる。リスク管理は、取引や株価情報を常にやり取 りすることが必要となり、従来は、データウェアハウスへのリンクを構築するとい うアプローチをとっていた。しかし、FinXMLを共通言語として利用すれば、リ スク管理業務に参加している取引システムは、自由自在にデータのやり取りを行う ことができる。FinXMLは、データウェアハウスに取って代わるリスク管理ツー ルとはなり得ないが、データウェアハウスの構築や管理を行うミドルウェアとして 非常に重要な役割を担う。また、FinXMLは、顧客がディーラーやブローカーと 常時、データ交換を行うための標準としても機能するため、オンラインでのカスタ マーサービス提供を実現するツールともなる。

 FinXMLを開発したインテグラルのハーパル・サンドュー社長は「FinXMLは、 異なるフロントエンド、バックエンドシステムの統合を容易にし、今後は、銀行間 のオンラインデータ交換の土台として成長するであろう」と述べている。さらに、 アナリストのケビン・ディック氏は「XMLは、企業内もしくは企業間のアプリケー ションを統合するプラットフォームを提供するが、各業界に特有な文書フォーマッ トの定義などは含まれていない。FinXMLは、資本市場に特有な機能や言語をXML に取り入れたことで、XMLの利点を最大限に引き出している標準と言える」とコ メントしている。


(2) IT業界

@RosettaNet (www.rosettanet.org

 ロゼッタネットは、IT関連機器の大手メーカー、販売店などが集まって、ITサ プライチェーンにおけるインターネット取引標準を設定する目的で設立されたコ ンソーシアムである。98年2月に、コンピュータ機器の大手流通販売業者である イングラム・マイクロ (www.ingrammicro.com)の主導の下、シスコ、コンパック、IBM、東芝といったメーカー、マイクロソフト、ネットスケープなどのソフトウェア開発会社、CompUSAを代表とするコンピュータ小売業者、フェデラル・エキスプレス、UPSなどの配送会社や金融機関大手などが設立メンバーに名を連ねている。現在は、90社を超える企業がロゼッタネットのサポートを表明している他、コマースネット、CompTIA(Computing Technology Industry Association)、ASC X12、EIDX(Electronics Industry Data Association)、OBI などの標準関 連団体などともパートナーシップを結んでおり、設立後わずか1年半足らずのう ちに、この分野で最も注目を集めるコンソーシアムとなった。

 ロゼッタネットは、XMLをベースとした標準を開発し、製品や取引の定義付け に必要な辞書を作成するのに加え、新たな標準に基づいたビジネスプロセス 「Partner Interface Process(PIP)」の設定も手がけている。ITサプライチェー ンの中で行われているプロセスを、「パートナー・製品レビュー」、「製品紹介」、「発 注管理」、「在庫管理」、「市場情報管理」、「サービスとサポート」の6つの分野に 分けて、100以上のPIPsを作成することを目的としている。辞書については、全 製品の技術仕様を含んだ「technical properties dictionary」と、カタログ仕様、 取引方法、パートナーの定義付けなどを記した「business properties dictionary」 の2種類に分けられ、作成作業が進められている。


 ロゼッタネットは、発足直後から標準設定に積極的に取り組み、目を見張る成果 を挙げている。ロゼッタネットに代表されるような標準団体の多くは、標準の開発、 承認、実施などに非常に時間がかかるという問題を抱えており、極端な場合は開発 から実施までに数年かかる。しかし、ロゼッタネットは4〜6週間で標準開発を行 い、その半年後には実施段階に及ぶという驚異的なパフォーマンスを見せており、 98年半ばの段階で、既に以下に挙げた4つの分野での標準設定を実現している。

1) カタログ情報V.1:カタログに掲載する製品番号、製品説明の内容、分類法、配 達データなどの標準を設定する
2) ソフトウェア技術仕様:パッケージ・ソフトウェアや特許使用ソフトウェアの技 術仕様を定義付ける
3) メモリ技術仕様:メモリチップの技術仕様を定義付ける
4) ラップトップ技術仕様:ラップトップ・コンピュータの技術仕様を定義付ける


さらに、その後以下の分野に傾注し、それぞれで成果を挙げている。

1) 技術特性:150種以上のIT製品についてその特性を定義付ける
2) パートナー特性:サプライチェーン・パートナーの特性を定義付ける
3) カタログ特性V.2:カタログ情報V.1に続き、価格、市場情報などの特性を定 義付ける
4) ビジネス特性:ASC X12、UN/WEIFACT、Comp TIAから、EDIの特性のベ ースラインを形成する
5) インプリメンテーション・フレームワーク:Partner Interface Processes(PIPs) の短期間での効率的なインプリメンテーションを可能とするフレームワークを 作成する
6) カタログ更新(PIP/001):カタログ更新に係るPIPのXMLドキュメント等を作成する


99年の4月には、マイクロソフトとIBMが、最初に開発されたPIPであるカ タログ更新をサーバー・ソフトにインプリメントして実行することに成功したと発 表している。製品開発に伴いサプライチェーンの中のカタログ全てを更新できる ことで、1社当たり年間100万ドルもの経費節減が可能だと言う。

6月には、電子技術辞書の最初のバージョンを完成したと発表している。この辞 書はIT製品の技術仕様等に係る約3,600の単語を規定するもので、これがXML の「タグ」として利用されることになる。

同月、ロゼッタネットは、それまでの成果を実際に業務にインプリメントする 大規模な実証実験、「Econcert」を開始している。30社以上が2000年2月2日ま でに、それぞれの業務プロセスに導入したPIPについて、その成果を実証すると 言うものである。例えば、東芝アメリカ・インフォメーション・システムズ社は同 社のノートブックPCのカタログ更新実証を行うと発表している。

さらに、8月にロゼッタネットはこれまで対象としてきたIT産業(7,000億ド ル規模)に加えて、新たにエレクトロニック・コンポーネント(EC)産業(2,000 億ドル規模)が加わると発表している。ボードもITとECの2本立てになり、EC ボードにはインテル、マイクロン、モトローラ、ナショナル・セミコンダクター、 テキサス・インストルメンツ、日立セミコンダクター、東芝などが名を連ねる。

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