99年12月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国における新IT R&D政策の動き -4-


3.インターネット2のアップデート

ネットワークの話になったので、インターネット2(http://www.internet2.edu)の最新状況についても少し触れてみたい。インターネット2は96年10月(NGIの発表の7日前)に34の大学が集まってスタートしたが、現時点では160以上の大学、60以上の企業の参加を得、さらには国際的にも23のネットワーク(日本はJAIRCとAPAN)とMOUを締結して接続されている。米国内のバックボーン・ネットワークとしてはvBNSとAbileneがあり、それぞれ101の大学及び公的研究機関(準備中37)、72大学(準備中23)が接続している。接続数や高速化という面での発展もさることながら、QoS(Quality of Services)技術の研究用の「Qbone」計画、大容量のデータをインターネット内で分散して蓄積するための「I2-DSI(Distributed Storage Infrastructure)」計画、高等教育用ビデオ・ネットワーク・サービスを行おうとする「I2-DV(Digital Video)」計画など、新しい研究対象が次々と生まれるなど、着実な発展を遂げている。ただ、インターネット2には問題点も指摘されているようであり、例えば10月7日付けのNYT紙は次のような趣旨の記事を載せている。

「インターネット2に対する意見は、21世紀への掛け橋になるというものと、高価な行き止まりにぶつかるという両極端に分かれている。批判者の主要な論点は、大学にとってコストがかかりすぎるというのが第1で、NSFの助成が受けられたとしても、接続だけで一大学当たり年間50〜100万ドルはかかる。しかもNSFは来年の春にはこの助成を打ちきることになっている。究極的なバーチャル・リアリティを実現しようと言う”tele-immersion”のような大容量を必要とするアプリケーションもあるが、実際にはそのようなデマンディングなアプリケーションはあまりなく、ネットワークの利用率は、ならすと1%程度にしかならない。UCAIDプレジデントのダグラス・ハウエリング氏は「人々に最先端のインターネット・アプリケーションの新たな地平線を気付かせることが重要なのであって、一朝一夕にできるものではない」と言うが、インターネット2のバックボーンを提供している企業グループは2003年までの利用を保証しているだけであって、その先の保証はない。ハウエリング氏は「インターネット2の目的はバックボーンそのものを持つことではなく、ここで得られた研究成果を通常のインターネットに移植していくこと」とするが、批判者に言わせれば、結局Cisco、AT&T、Lucentなどに成果を盗まれているだけということになる。また、MCIワールドコムのビンセント・サーフ副社長は「(2.4Gbpsというインターネット2の水準は)民間が達成していることよりはるか先を行っていると言うほどでもない」と述べており、現に同社はインターネット2の水準に近いvBNS+ (http://www.vbns.net/vBNS+)と呼ぶ一般の大学向け商用サービスを6月に開始している。」

 批判を中心にした記事なのでそのまま受け取ってはいけないだろうが、やはりこの分野の技術進歩は凄まじいもので、大学も大学だけのネットワークを再び持てて良かったなどとノスタルジックな思いにふけっていると、すぐに民間に負いつかれて飲み込まれてしまうと言うことなのだろう。


4.ASCI計画のアップデート

ASCI計画については、上述のようにDOEに対する風当たりが強いためか、黙々と研究が続いていると言う印象で、98年秋のブルーパシフィック(IBM、ローレンス・リバモア)とブルーマウンテン(SGI、ロスアラモス)の派手な発表以降は、ひっそりとニュースがアップデートされているだけである。

最初のテラフロップス機であるインテルのレッドは、99年9月にアップグレードが完了して、3Teraflopsを超えてブルーと同等のパフォーマンスのマシンに生まれ変わっている。オリジナルのレッドはPentium Pro 200Mhz(キャッシュメモリー256KB)を9,072個使っていたが、これを PentiumU Xeon 333MHz(同512KB)に置き替え、さらに594GbytesのシステムRAMを倍にすることで、アップグレードが行われた。オリジナルの開発費が約5,500万ドルであったところ、その15%増しの費用でこれを達成したと言う。

ブルーパシフィックについては、10月28日、ローレンス・リバモア研究所でブルーパシフィック導入1周年の記念行事があり、続けてきたアップグレードの完了を発表した。その結果、ピーク性能では3.9Teraflopsを達成したと言う。

続けてIBMが2000年6月に同研究所に導入することになっているオプション・ホワイトの10Teraflopsの機種は、現在IBMのポケプシ(ニューヨーク州)の研究施設で組立て中である。ホワイトは、ブルーパシフィックが32ビットのPowerPC 604Eチップを5,856個使っていたのに対し、64ビットで銅配線のPower3-Uチップを8,192個使う。さらに、計算そのものより全体のパフォーマンスに影響するようになっているデータのやり取り(スイッチング)の速度が、現行の150Megabytes/secからコード名「Colony」と呼ばれる500Megabytes/secの技術に変更されることで、10Teraflopsが実現できると言う。このホワイトを導入するローレンス・リバモア研究所の新451ビルディング(http://www.llnl.gov/asci-scrapbook)は完成しており、既に7月から「Baby Huey」と名付けられたホワイトのプロトタイプ機が稼動中である。Baby Hueyは16個のNightHawkと呼ばれるノードからなる114Gigaflopsの性能を持つ機種で、10月には上述のColonyスイッチングを導入して、ホワイトのハード及びソフトの評価を開始している。

ホワイトの次が何色になるのかはわからないが、ASCIプラットフォームの第4段階の30Telaflops機(とりあえず「T30」と呼ばれているらしい)のRFP(Request for Proposal)(http://www.acl.lanl.gov/30TeraOpRFP)が5月17日にロスアラモス研究所から出されている。基本的には2001年6月30日までに30Teraflops のハードウェアをロスアラモスに納入することを求めるものであるが、もし時期が2002年1月31日までずれ込む場合は、最終マシンは35Teraflopsとして2000年12月31日までに中間マシンとして10Teraflopsのものを納めておく必要があり、さらに時期が2002年4月30日になる場合は、最終マシンは40Teraflopsで中間マシンは13Teraflopsである必要がある。さて、この公募は99年9月29日に提案書の締切りが設定されていたが、今のところどの企業がこの提案を出したかは明らかにされていないようである。ただ、10月29日付け及び12月2日付けのCNETニュース「LINUX could power new supercomputer」と「Sun steps up supercomputing push」などによると、SGI/クレイとサンが応募していることは確認されており、コンパックも出しているようである。記事に寄ればSGIは従来のSGI製チップのMIPSとOSのIRIXの組み合わせではなく、インテルのIA-64チップとLINUXの組み合わせを考えているようである。また、サンはもともとクレイから技術導入をしたE10000コンピュータの64プロセッサのものをベースにして、次期チップであるUltraSparc-Vに置き替えることで30Teraflopsを達成できる見込みと言う。

さて、ホワイトを製作中のIBMであるが、T30には応札していないようである。その理由として、IBMの独自のスーパーコンピュータ開発に専念するためとされている。現に、99年12月6日、IBMは1億ドルをかけて独自のペタフロップス機を開発するとのプレス発表を行っている。このマシンは「Blue Gene(遺伝子の意味)」と呼ばれ、5年以内の完成を目指し、たんぱく質の折り畳み構造の解析を主要な目標に掲げている。構造としては、1Gigaflopsのプロセッサ32個を1つのチップ上に搭載し(32Gigaflopas)、そのチップ64個を一つのボードに載せ(2Teraflops)、そのボード8枚を一つのラックに納め(16Teraflops)、そのラック64基をリンクさせる(1Petaflops)。アーキテクチャーの特徴としては、できるだけ切り詰めたインストラクションのみを用い、マッシブ・パラレル・システムを今日の最大5千threadsから8百万threadsに拡張し、自己修復能力を持たせるという「SMASH(Simple, Many and Self-Healing)」アプローチをとる。

なお、10月中旬に上院が核実験禁止条約(Comprehensive Test Ban Treaty = CTBT)の批准を否決したが、これに対して大統領が「米国は核実験のモラトリアムを継続する」との声明を発表していることから、DOEとしては核兵器保全管理計画(Stockpile Stewardship Management Program = SSMP)(ASCIはこの一部)はほとんど影響を受けないと言及している。

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