2001年8月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国における電子政府の進展」

 

(4)  電子政府の一層の推進のための法案

 

 200151日、民主党のJoseph Lieberman上院議員(コネチカット州選出)と共和党のConrad Burns上院議員(モンタナ州選出)他は、電子政府の一層の推進を図るための法案”E-Government Act of 2001”(http://www.senate.gov/~gov_affairs/050101_press.htm)を提出した。この法案は、

 

@OMBに「連邦CIO」ポストを新設し、また事務局として「Office of Information Policy」を新設する。

A既存の「CIO協議会」(行政命令により設置)のミッションなどを法定する。

B省庁間にまたがる電子政府プロジェクトを推進するために「E-Government基金」を創設し、2002年度から2004年度までの3年間にわたり、毎年2億ドル(単年度ではブッシュ政権の2002年度予算案2,000万ドルの10倍、3年間では6倍)の予算を投入する。

C既存の政府ポータル「Firstgov.gov」を強化する。

D「オンライン国立図書館」に向けた取り組みを強化する。

E政府職員のための「連邦ITトレーニング・センター」を設立する。

F地域におけるデジタル・ディバイド対策として設立された「コミュニティ技術センター」の活動を強化する。

GGIS(地理情報システム)のための標準化を一層推進する。

 

などを主な内容としている。また、上述の”share-in-savings”方式の導入もうたっている。

 この法案に対しては、既に産業界や市民グループをはじめ幅広い層から支援の声があがっており、電子政府推進に対する期待の高さが窺われる。

 

3.                               電子政府の具体的な進展状況

 

 以上、米国の連邦政府レベルでの電子政府に対する戦略、体制、予算などを見てみたが、それでは具体的な進展状況はどうなっているのであろうか。

 最近、電子政府の具体的な取り組みに関する様々なニュースを耳(目)にする。

内国歳入庁(IRS(http://www.irs.gov/)426日に発表したところによると、2001420日までの2000年度の個人所得税申告期間における電子納税件数は、前年の3,540万件を13%上回る3,950万件に達した。

政府調達局(GSA(http://www.gsa.gov/)は政府関係機関への製品調達を請け負っている業者に対し、200171日までに該当製品をGSAの運営するオンライン取引サイト「GSA Advantage!(http://www.gsaadvantage.gov/)」に掲載するよう義務付けた。これによりオンラインで政府機関と取引できる業者数は現在の4,000社から9,000社に、製品数は400万点に増える。

といったものである。

 しかし、「電子政府」にも様々なタイプのものがあるため、一口に「具体的な進展状況」を述べるのは難しい。20006月の駐在員報告では、電子政府のタイプを@情報の収集と提供、A文書のファイリングと処理、B補助金などの公募と配布、CEコマース、Dイントラ/インターガバメントのネットワーク、の5つに分類しているが、先般の「e-gov 2001」イベントへの出展だけ見ても、今や州政府、地方政府まで含めて各分類ともに進展を見せている。

 

 以下ここでは、連邦政府機関によるオンライン販売の具体的な進展状況について取り上げてみよう。

 オンライン販売については、2000年のオンライン販売市場で、従来トップの座を占めてきたアマゾン・ドットコムが28億ドルで初めて2位に転落し、代わってトップに立ったのが36億ドルを売り上げた連邦政府であった、という興味深い調査結果が、2001528日に公表された。これは、Federal Computer Week(http://www.fcw.com/)Pew Internet American Life Project(http://www.pewinternet.org/)が合同で行なった調査で、ここで言う連邦政府とは、ホワイトハウスとその直属機関、国務、財務、国防など14省とその付属機関、及び70余りの独立政府行政機関を指している。

 総額が36億ドルとは驚くべき額だが、実はそのほとんどは財務省によるもので、サイトhttp://www.treasurydirect.gov/における貯蓄債券販売などで33億ドルと全体の91%を占めている。しかし、その他にも、アムトラック(準国営鉄道)による乗車券販売が6,200万ドル、国立公園管理局によるキャンプ場の予約が540万ドル、郵政公社による切手販売が270万ドル、第二次世界大戦記念碑建設促進委員会によるギフト販売が230万ドル、CIAによる外国の新聞報道記事(英訳版)のオンライン販売(こんなものがあるんですね!)が100万ドルなど、様々な物品・サービスがオンラインで販売された。

 また、20011月からはGSA(政府調達庁)が事務用品や机などの余剰品のオンライン競売を開始し、最初の3か月で300万ドル以上を売却したという。実際、Federal Computer Week誌が掲載している政府サイトの一覧表によると、連邦政府機関全体では民間企業への委託販売のサイトも含め164のウェブサイトが運営されており、以上の他にも、スミソニアン協会やNASAなどの人気グッズの販売、各種の差押え物件や中古品の競売、白書やデータベースの販売などが行なわれている。

 

4.                               州/地方政府における先進事例

 

 以下に、先般の「e-gov 2001」イベントにおいて先進事例として出展・紹介されていたものの中から、メリーランド州における電子調達「eMaryland Marketplace」とポートランド警察局におけるワイヤレスを利用した公安活動「ポートランド警察データシステム」を紹介する。

 なお、これらの先進事例はワシントン・コアから提供してもらっている。

 

(1)  メリーランド州における電子調達 eMaryland Marketplace

(http://www.emarylandmarketplace.com/)

 

● メリーランド州における電子調達の概要

 

 「デジタル・メリーランド」を目指すメリーランド州は「EGov 2001」で、電子政府に対する先駆的な組織として「E-Gov 2001 Pioneers」賞を受賞している。電子調達システム自体は、特別目新しいものではないが、メリーランド州における取組みは、単なるリンクサイトに終わるものではなく、本当の意味でのワンストップ調達サービスを提供している点で、他の追随を許さない。

 

● eMaryland Marketplace

 

 メリーランド州では、1997年に、「知事の調達タスクフォース(Governor’s Procurement Taskforce)」が設置され、州調達局(Department of General Services)と密接に協力しながら、オンライン上での調達に取組みはじめた。20003月になると、オンラインカタログを利用した調達、入札を通じた2種類の調達を行うことができるeMaryland Marketplaceを開設した。この結果、州政府機関に商品、サービスを提供する企業とのEコマースが開始されるようになった。現在、約260のバイヤー(州内全バイヤーの10%に相当)、約300(州内全ベンダーの20%)のサービスベンダーが、このポータルを利用した商取引を行っている。調達物品は、コンピュータ・ソフトウェア、医療品、食料品、事務機器、日常消耗品、さらには、学校施設の利用に関する研究までもが調達の対象となっている。

 初年度は、ウェブサイト上で、10万ドルの調達取引が行われたが、メリーランド州では、2004年までに、全調達取引の80%をオンライン上で行うことを目的としている。

 

2 eMaryland Marketplaceのウェブサイト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 仕組みと利用方法

 企業がこのウェブサイトを利用して州政府と取引を行うには、オンラインで登録を行う必要がある。登録者は利用するサービスの内容により異なる年会費を支払う仕組みとなっている。例えば、オンラインカタログ販売の他、オークションに参加できる「ベーシック会員」は150ドル、オンラインカタログ販売、オークション参加、電子メールによるオークション情報の自動的受信が可能な「プレミアム会員」は225ドルを支払う。尚、購入側である州政府機関は、無料でユーザー登録を行うことができる。

 企業は、取り扱う商品をオンラインカタログとしてウェブ上に掲載し、買い手である州政府機関がこのカタログをもとに、ウェブサイトで注文を行う。州政府機関は、注文を行うごとに3ドル50セントの手数料を州調達局に支払う。また、州政府機関が購入したい商品を掲示し、企業に入札させるオークションを開くこともできる。一旦州政府機関による購入が決定されると、その購入は自動プロセスにより、承認される。購入にかかる全工程時間は、従来の調達システムの30分に比べ、わずか6分ほどとなっている。

 

● 調達電子化の背景と効果

 

 政府による調達には、政府が希望する価格で物品を提供する企業の調査、書類作成、郵送など、時間とコストのかかる作業が多い。これらの過程を簡素化し、ジャストインタイム(JIT)のサプライチェーンを構築する目的で、Eマーケットプレイスが開設された。また、ウェブベースで利用できるEマーケットプレイスは、メリーランド州全体に分散する州政府機関全てが利用できる調達機能として極めて好評である。サイト立ち上げには、SAICKPMGコンサルティングなどの民間ベンダーが技術支援を提供している。

 とりわけ、中小企業は、Eマーケットプレイスをより積極的に利用している。州政府機関による購入希望商品のオンライン掲示により、中小企業は、最新の調達情報を入手することができ、従来のような煩雑な手続きなしにアクセスできることが、その大きな魅力となっている。

 同ウェブサイトでの取引を行うことで、メリーランド州では注文1件ごとに100ドルのコスト削減、年間1,200万ドルのコスト削減を見込んでいる。

 

3 政府機関による調達物品のオンライン掲示

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


● 情報セキュリティへの対応


 企業、政府機関とも、登録の際にユーザーIDとパスワードを取得する必要がある。取引に関する情報は、SSLの暗号化を通じてやりとりされている。

 同サービスは、これまで政府向けSIサービスで活躍してきたSAICなどが、政府向けECソリューション・サービスの本格的なサービス展開を念頭に、関与したプロジェクトにより実現している。セキュリティ対策には定評のあるこのSAICが関与していることはひとつのポイントといえるが、現状では、特に最新の対策やセキュリティ技術の導入は見られず、ごく基本的なレベルのセキュリティとなっている。

 

(2)  ポートランド警察局におけるワイヤレスを利用した公安活動 ポートランド警察データシステム

(http://www.portlandpolicebureau.com/)

 

● ポートランド警察局の取組み概要

 

 オレゴン州ポートランドにあるポートランド警察局(Portland Police Bureau、以下PPB)は、地方政府における先取的な電子政府への取組みの例として、高い評価を得ている。「EGov 2001」でも、地域コミュニティでの公安活動における先進的なIT技術の活用や民間ベンダーとの積極的なパートナーシップの提携のモデルとして、大幅に改善された情報システム、「ポートランド警察データシステム(Portland Police Data System)」の紹介を行っている。

 

● ポートランド警察局における問題の所在

 

 PPBは、現在1,500人の職員を抱えている。1990年に策定された組織の基本理念には、@サービス志向、Aパートナーシップ、Bエンパワーメント、B問題解決、Cアカウンタビリティ(説明責任)が盛り込まれており、これらをもとに、ポートランド地域における犯罪や犯罪への恐怖を取り除き、住民と警察局とのパートナシップを築き、住民の生活を向上させることを目的として活動している。

 PPBでは、より効率のよい、効果的な情報の収集、蓄積、処理、アクセス、伝達、利用、保護を実現するため、現在の複雑で時間とお金のかかるシステムや手順をどのように改善していくかという問題に直面していた。

 PPBにおける情報システムは、処理もそれなりに早く、信頼度も高かった。また、20年以上にわたる情報が蓄積され、ポートランド地域に密着したものであったため世間の認知度も高く、組織内からの支持も高かった。一方で、PPBの情報システムは、1970年代に開発されたものであり、スクリーンに映し出される情報は、テキストのみであった。また、その古さゆえに、運用維持コストもかかり、人的負担も大きかった。あいにく、PPBは、情報システムを共有していたパートナーを失ったため、金銭的な負担も増えたり、政治的な支援が受けられなくなったりと、内部的な問題にも悩まされることとなった。

 

● PPDSの概要

 

 ポートランド警察データシステム(Portland Police Data System)は、100もの犯罪・司法機関で働く5,000人以上の人々が利用する、地域的な法執行記録の管理システムであり、他の犯罪・司法システムへのゲートウェイとしても機能していた。PPDSは、信頼度の高いワイド・エリア・ネットワーク(WAN)やワイヤレス・ネットワークを通じて送信され、パーソナル・コンピューター(ネットワーク、ダイヤルアップ、バーチャル・ネットワークなど)、モバイル・データ・コンピューターなどを通じてアクセスできる。性能はそれなりに高く、良く機能してはいたが、旧式のアプリケーション(図4参照)であった。

 

4 旧式のPPDS情報システム[1]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PPDSに管理されていた情報には次のようなものがある。

- 住人情報(975,000件)              - ケース管理

- ケース(1,950,000件) - 容疑者のトラッキング情報

- 拘留情報(850,000件)              - ギャングのトラッキング情報

- 車両情報(565,000件)              - 拳銃検索

- 911(緊急通報)コール数(3,225,000件)             - 財産/証拠

- 住所・電話番号情報     - 抵当

- 情報・照会       - 戦略的調査

- 薬物訴訟トラッキング情報         - 犯罪マッピング・システムのデータ・ソース

- 裁判所スケジュールとトラッキング情報   - 他の犯罪・司法情報システムへのアクセス

 

● 新システムの導入に対するビジョン

 

 新情報システムの導入にあたり、PPBでは、以下のような基本的な問いかけに明確に答える必要があった。

·                将来、どのような情報を保有し、どのような情報システムを持つべきか?

·                将来に向かい、どのような情報を強みとして保持するべきか?

·                どのようにして、巡回警察官に適切な情報を伝達することができるか?

·                どのようにして職員の生産性を高めるべきか?

·                どのようにして既存の情報システムを役立たせたらよいか?

·                どのようにして将来の技術変化に対応していくのか?

 これらの問いかけに答えるかたちで、PPBは、次のような新システム導入のビジョンを打ちたてた。

 

<技術面>

‐ 新システムへグラフィック情報を導入できるようにすること

‐ 従来のテキスト情報に加え、顔写真(自動車免許証の写真)を追加すること

‐ パトロールカーにデータとイメージを送信できるようにすること

‐ 電子引用や人種のプロファイリング・データの収集をワイヤレス化すること

‐ 容疑者の指紋識別をワイヤレス化すること

 

<情報管理面>

‐ 重複した情報収集・投入を減らすために情報を共有すること

‐ 報告書作成のために電子的な手段による情報収集を行うこと

‐ 可能な限り既存の情報と設備を利用すること

‐ コミュニティ巡回のための警察官を配置する時間を短縮すること

 

 これらのビジョンを実現化するにあたり、まず何よりも、使用者である警察官が受け入れられるようなものでなければならなかった。そのためには、導入に伴う混乱をなるべく最小限に抑え、段階をおったアプローチを実施する必要があった。また、標準となるようなハードウェア、ソフトウェア、コミュニケーション・ツールを使用したり、既存のシステムと新システムの混在を受け入れるということも考慮に入れる必要があった。

 ただ、このような新システムを導入することに障害がないわけではなかった。例えば、政府からの補助金に関しては、「警察官の時間を節約する」ものであることが要求されており、既存の800mhzプライベート・ラジオ・システムを使用しなければならなかったり、保安官が顔写真を保持しなければならなかったりと、技術的・法的な制約もあった。また、新情報システムの開発・導入には、ポートランド市のIT部門や、他の警察機関におけるパートナーなど、複数の政府機関・部署が係わらなければならず、スタッフの専門技術・知識に限界があるということなども、プロジェクトを進める上での実際的な問題であった。

 

● 新情報システムの導入

 

 このような状の中、PPBは、まず司法省のコミュニティ中心治安維持部(Community Oriented Policing Section)による機器購入への助成金、「DOJ/COPS More 98 Grant」を取得した。これにより、パトロール車両における顔写真の取得が可能になり、電子的手段による現地からの報告プロセスが簡易化された。実際に使用した機器としては、モトローラ社の「MW520」モバイル・コンピューター(図5参照)と、PPDSの既存の設備を有効利用するために、シーガル社の「WinJa」ソフトウェア開発ツールを搭載した。また、顔写真を取り入れるために、地域の政府機関の協力を得た。

 

5 モトローラ「MW520

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、このようなモバイル・データ・コンピュータ(DMC)は、300台のパトロールカーに搭載され、スクリーンをタッチすることにより簡単に機能するソフトウェアがインストールされている。また、顔写真付きのマイクロソフト・ウィンドウズ/ブラウザー(PPDS仕様)が使用できる。また、PPDSのモバイル版のデザイン設計は既に開始されており、200112月に顔写真付きのものが開発される予定である。さらに、20027月には、電子手段による現地からの報告ができるようになる。

 

6 新・旧PPDS画面

 


● 新情報システムの導入から得た教訓

 新情報システムの導入にあたり、PPBでは、エグゼキュティブ・レベルの管理者が直接係わることと、プロジェクトを通じたエンドユーザー(警察官)の参加が、成功に不可欠であるという教訓を得た。また、技術スタッフが、新しい技術を使いこなすための再トレーニングには時間がかかり、警察官自体へのトレーニングも重要ということであった。そして、何より、電子政府を実現させるには、「技術ありき」の業務・組織変革ではなく、あくまで業務の効果・効率を高めるために新技術を導入するというスタンスが必要だという。


[1]ビル・ウェスランド PPB上級情報システムマネージャーのプレゼンテーション資料より抜粋(2001711日、ワシントンDCで開催された「E-Gov 2001」)。以下、この項で使用する写真は、氏のプレゼンテーション資料からの抜粋。

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