98年3月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国産業におけるIT活用の動向(前半) -3-


3.IT活用の実例

 一般に、企業がどのようなIT投資をどの程度行うかは、その企業が属する業界の規制・競争の動向から、その企業の歴史的背景、またITを専門とする人材の有無などによって左右され易い。従って、米国のIT活用の動向を知るためには、企業の実例をいくつも見ることが必要である。以下、様々な業種の中から、新しいITを適切な管理体制とともに活用することで効率と生産性を高めている企業19社の例を紹介する。なお、この部分は主に米国の業界誌であるInformation Week誌と Inter@ctive Week誌から拾っている。


(1)製造業

A.航空宇宙業界

 米国の航空宇宙業界は、過去5年の間に急激な変化の波にさらされた。まず、米国政府の防衛費削減を背景に、軍事関連メーカーの統廃合が進み、企業数が極端に減少した。民間航空機製造部門でも、90年代前半に市場がマイナス成長に転じたことから、97年には、業界史上最大の合併がボーイングとマクダネル・ダグラスの間で合意され、米国民間航空機市場はボーイングの独り舞台となった。

 この業界におけるIT投資は、2つの動機に基づいている。第1は、複数の情報システム統合化である。業界再編の中で繰り返された企業合併は、存続企業に何種類もの情報システムを混在させる結果を生んだ。合併を通じて大型化した企業は、これらのシステムを統合化して自社情報インフラの足場を固める必要性に迫られている。

第2の動機は合理化である。航空宇宙業界最大の顧客であった国防総省では大規模な予算カットが起こり、民間航空会社においても、旅客獲得のための熾烈な競争を背景にしたコストダウンへの圧力が働いていることから、航空機メーカーも、ITを活用した製品開発・製造コストの削減に真剣に取り組むようになっている。

97年に就航したボーイング777型機が、100%コンピュータを使って設計された「ペーパーレス・ジェット第1号」であることは広く知られているが、ITは、社内の設計プロセスだけでなく、世界各国から多くのサプライヤーが部品を供給する航空機の製造においても、業者間の連携を簡単かつ密接に行えるようにする効果を発揮している。


事例(1)
ボーイング(Boeing Company)
 米国最大の民間機メーカー。本社ワシントン州シアトル。97年総売上220億ドル(合併前)。(IT予算非公開)

ITプロジェクト:顧客情報・受注用エクストラネット構築(96年11月完成)

推定コスト:非公開

技術内容:詳細不明

プロジェクト概要:
 ボーイングのエクストラネットは、旅客機のスペア部品注文を顧客(主に航空会社と旅客機整備工場)から受けるためのシステムとして作られた。顧客はボーイング社からIDとパスワードを取得し、同社のウェブサイトからシステムにアクセスする。ここには、ボーイング製品に使用される41万点の部品がカタログ化されており、在庫状況がリアルタイムでわかるようになっている(注文や入荷によって在庫の有無は自動的にアップデートされる)。ボーイングは、このシステムによって、注文された部品が24時間以内に顧客のもとに届けられることを保証している。イントラネット・サイトは、同社のERPソフトウェア(Baan製)に統合されており、顧客は、注文の処理状況をいつでも正確に知ることができる。また、ボーイングのウェブサイトからは、同社が配送を委託しているユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のサイトにリンクが張られており、部品がボーイングから出荷された後の配送状況や配達予定を調べることができる。なお、部品代金の決済には、エクストラネットとは別のシステムから請求書が発行される。

主な成果
 97年7月までに、ボーイングのスペア部品を利用する750の企業がエクストラネットの利用登録を行った。システムの存在を広く知らせるため、同社は航空宇宙業界の専門雑誌や年鑑に広告を出し、並行してほとんどの顧客を対象とした電話営業を実施した。エクストラネットは、稼動開始後6ヶ月間で15万件の利用(注文、価格照会、在庫照会などの合計)を記録した。現在でも、1週間あたりおよそ10社の新規登録があり、98年11月までに利用件数の累計は50万に達すると見込まれている。

実施企業及び顧客へのメリット
 ボーイングは、今後同システムの利用者が大幅に増えることは予想していない。しかし、エクストラネットは、既存顧客への利便性を提供することで、顧客満足を向上させることに役立っており、利用者からの反響もこのことを裏付けている。同システムは、正式スタートの前にアラスカ航空、カナダ国際航空、B.F.グッドリッチ子会社のトラムコ(Tramco)の3社によって試用されたが、アラスカ航空の購買担当者は、「部品の注文や問い合わせを電話やファックスで行う手間が省け、スタッフが他の業務に時間を回せるようになった」とボーイングの試みを高く評価している。さらに、イントラネットの特質である管理の容易さは、ボーイングにもメリットとなっている。構築にあたっては、同社の情報システム部門を含む多くの部門が協力する必要があったが、稼動開始後のメンテナンスは、情報システム担当者の助けを借りることなくスペア部品部門が一括して行っている。

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