99年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるハードウェア・ベンダーのソリューション・ビジネス戦略(前半) -3-


 米国産業界全体にとっても、90年代初頭はリエンジニアリング・ブームが起こった一つの転換点であった。ITが企業の全体的戦略に占める重要性が増し、ネットワークやエンタープライズ・ソフトウェアを効果的に活用するため、組織内部からの変革が必要となったのである。新しい戦略的ターゲットを求めていたハードウェア・ベンダーにとって、企業の改革ニーズは理想的な市場と言えた。ITユーザーに起こった以下の3つの変化は、ソリューション・ビジネスへの需要を押し上げる要因となった。


1. 人材の不足

 ユーザー企業にとって、急速に移り変わる技術に対応できる人材を確保することは困難であった。分散コンピューティング・ネットワークへの移行によって、それまで社内IS部門や中央データセンターに集中していた機能の多くが組織全体に広がった。このような環境は、システムやネットワークの管理に多くの人手を必要とする。また、技術のトレンドがめまぐるしく変わるため、どんなに優秀なスタッフを抱えていても、継続的なトレーニングが欠かせない。一握りの大手ハイテク企業を除けば、こうした人材の確保・育成と採算のバランスを取れる企業は少ない。必然的に、信頼できる有力ソリューション事業者にIT関連業務のほとんどを委託する方が、企業にとって効率的であるということになる。


2. コア業務に専念するためのアウトソーシング需要

 経営リストラを進め、コア・コンピタンスへの注力化を目指す企業にとって、ソリューション事業者が提供するアウトソーシング・サービスは魅力的なオプションである。企業の競争優位に不可欠の業務だけを残し、サポート的な業務プロセスを社外の業者に一任してしまうのである。


3. オープンシステム・ソリューションへの必要性

 ユーザー企業は、互換性のないハードウェアの特性により、長年にわたって特定のメーカーに囲い込まれていた。しかし、各ベンダーの製品ラインナップにはそれぞれ一長一短があるため、ハードウェアの種類によっては、他社製品よりも品質的に劣るものを購入しなければならないという弊害があった。90年代に入ると、ユーザー企業はオープンシステムのコンセプトに基づくハードウェアの製造を強く求めるようになった。ベンダー間の互換性を確立し、自分たちの業態に最も適した機種を選んで自由に組み合わせられるようにすることを望んだのである。中級・高級システムにおいては、オープンシステムへの需要がUNIXやウィンドウズNTといったOSに対する人気を高める基になった。このオープンシステム化は、ハードウェア・ベンダーの間に最も大きな影響を及ぼした。このトレンドに乗り遅れたベンダーの製品は、互換製品の組み合わせによるシステムに乗り換えたユーザー企業によって、次第に淘汰されていったのである。こうして、ユーザーの圧力で各社が互換性の重要性を認識するようになった結果、ベンダーの間にも、異なる機種同士を組み合わせた効果的なITソリューションの構築に関するノウハウが蓄積されていった。


(4)まとめ

 ソリューション・ビジネスのコンセプトは、ハードウェア・ベンダーが伝統的に重んじてきた保守バンドルサービスの体制が崩壊した90年代初期から業界内に発達した。中級・高級ハードウェア・ベンダーは、ITサービスの提供において長い歴史を持っていたにもかかわらず、競争上の必要性からソリューション・ビジネスに目を向けるようになったのは、ごく最近のことである。理由の一つは、収益が大幅に落ち込んだ機器製造に代わる収益源が必要とされるようになったことにある。また、もう一つの大きな理由は、産業界全体において、物理的な製造設備よりも人的リソースの持つ価値が重視されるようになったことである。自社スタッフが持っているスキルとノウハウの価値に気づいた各ベンダーが、ソリューション・ビジネスに進出することは、決して容易ではないものの、理に適った選択であったと言える。

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